数学2F
このノートの読み方
本文は出題年度では区切らず、初めて学ぶ人が道具を一つずつ増やせる順に構成している。各テーマは「理論を読む → 基本例で使う → 演習で定着させる」の順で進む。第1部で複素数・正則関数・Cauchy の積分公式・級数展開・留数を学び、第2部で複素積分を Gauss 和へ応用する。第3部では Fourier 級数と変換、第4部では Laplace 変換と微分方程式を扱う。
実数の微分・積分と三角関数を知っていれば読み始められるようにしている。初読では証明の細部を全て暗記する必要はなく、各理論欄の「何を計算する道具か」「なぜその式になるか」「この問題ではどこに使うか」を順に追えばよい。
第1部 複素数・正則関数・基本的な積分と変換
複素関数・多価関数・特異点
基本例:四種類の複素関数
複素平面上の正則関数、多値関数、有理型関数、真性特異点を持つ関数の例を、それぞれ一つずつ挙げよ。
複素数を平面上の点として見る。 虚数単位 \(i\) は \(i^2=-1\) を満たす数であり、複素数は
\[ z=x+iy\qquad(x,y\in\mathbb R) \]
と書く。\(x=\operatorname{Re}z\) を実部、\(y=\operatorname{Im}z\) を虚部と呼ぶ。\(z\) を平面上の点 \((x,y)\)、または原点からその点へ向かうベクトルと考えるとよい。
共役複素数と絶対値は
\[ \bar z=x-iy,\qquad |z|=\sqrt{x^2+y^2},\qquad z\bar z=|z|^2 \]
である。\(z\ne0\) は、長さ \(r=|z|\) と偏角 \(\theta\) を使って
\[ z=r(\cos\theta+i\sin\theta)=re^{i\theta} \]
と書ける。最後の等式は Euler の公式 \(e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta\) である。複素数の掛け算は「絶対値を掛け、偏角を足す」操作なので、後で積分路を回転させるときにもこの表示を使う。
複素関数とは何か。 複素関数は、複素数 \(z\) を別の複素数 \(f(z)\) へ写す規則である。\(z=x+iy\) とすれば
\[ f(z)=u(x,y)+iv(x,y) \]
と、二つの実関数 \(u,v\) で表せる。
点 \(z_0\) における複素微分は
\[ f'(z_0)=\lim_{h\to0}\frac{f(z_0+h)-f(z_0)}{h} \]
で定義する。実数と違い、\(h\) は平面上のあらゆる方向から \(0\) へ近づける。どの方向から近づいても同じ極限になることが必要なので、複素微分可能性は実微分可能性より強い条件である。ある点の周りの開いた領域で複素微分できる関数を正則関数、複素平面全体で正則な関数を整関数と呼ぶ。方向によらないための具体的な条件は、後の Cauchy–Riemann の理論で導く。
問題に出る四種類を区別する。
- 正則関数: 例えば \(z^2\) や \(e^z\)。通常の多項式は複素平面全体で正則である。
- 多値関数: 一つの \(z\) に複数の候補値が対応する関数。例えば \(w^2=z\) の解は通常 \(w=\pm\sqrt z\) の二つであり、\(\ln z=\ln|z|+i(\arg z+2\pi n)\) も無数の値を持つ。一価関数として扱うには、偏角の範囲を決める枝を選ぶ。
- 有理型関数: 正則関数のほかに孤立した極だけを持つ関数。例えば \(1/z\) は \(z=0\) で無限大へ発散するが、それ以外では正則である。
- 真性特異点を持つ関数: 例えば \(e^{1/z}\)。\(z=0\) の近くで極よりも複雑に振る舞う。
正則でなくなる点を特異点と呼ぶ。その点だけを避けた小円内で正則なら孤立特異点である。
ローラン展開から特異点を分類する。 円環領域で正則な関数は
\[ f(z)=\sum_{n=-\infty}^{\infty}c_n(z-z_0)^n \]
と展開できる。これは Taylor 級数に負の冪も許したものである。証明では、\(z_0\) を中心とする内外二つの円周をブリッジで結び、後で導入する Cauchy の積分公式を適用する。外側の円では
\[ \frac{1}{w-z} =\frac{1}{w-z_0}\frac{1}{1-\dfrac{z-z_0}{w-z_0}} \]
を正の冪の等比級数に、内側の円では負の冪の級数に展開し、項別積分すればよい。
負べき部分を主要部と呼ぶ。主要部がなければ可除特異点、有限個なら極、無限個なら真性特異点である。したがって \(1/z\) は極を、
\[ e^{1/z}=1+\frac1z+\frac{1}{2!z^2}+\frac{1}{3!z^3}+\cdots \]
は真性特異点を持つ。最初は「Laurent 展開の負べきの個数で、孤立特異点を分類できる」と理解すれば十分である。
それぞれ、例えば次のように選べる。
\[ z^2,\qquad \sqrt{z},\qquad \frac{1}{z},\qquad e^{1/z}. \]
\(e^{1/z}\) は \(z=0\) に真性特異点を持つ。
追加例:有理型関数と集積特異点
複素平面上の (i) 正則関数、(ii) 正則ではない有理型関数、(iii) 集積特異点を持つ関数の例を、それぞれ一つずつ挙げよ。
有理型関数は孤立した極を許すため、極を持つ例を選べば「正則ではない有理型関数」になる。
集積特異点は、特異点の列が有限点へ集まる非孤立特異点である。例えば \(\sin(1/z)=0\) となる点は \(z=1/(n\pi)\) であり、\(n\to\infty\) で \(0\) に集積する。
ローラン展開による分類は、中心の周りに特異点を含まない円環を取れる孤立特異点に対する議論である。集積特異点の周りにはそのような円環が存在しないため、可除特異点・極・真性特異点という三分類の外にある。
例えば
\[ \text{(i) }z^2,\qquad \text{(ii) }\frac{1}{z},\qquad \text{(iii) }\frac{1}{\sin(1/z)} \]
と選べる。(iii) は \(z=1/(n\pi)\)(\(n\in\mathbb Z\setminus\{0\}\))に極を持ち、それらが \(z=0\) に集積する。
正則性と Cauchy–Riemann 方程式
基本例:一点だけで条件を満たす関数
Cauchy–Riemann の関係式を記せ。また、
\[ f(z)=x^2+y^2+2ix \qquad(z=x+iy,\ x,y\in\mathbb R) \]
が正則であるかどうかを判別せよ。
\(f=u+iv\) と書くと、偏導関数が連続な場合の Cauchy–Riemann の関係式は
\[ u_x=v_y,\qquad u_y=-v_x \]
である。
この式は、複素微分を二方向から計算すると自然に現れる。まず \(h=\Delta x\) として実軸方向から近づくと
\[ f'(z)=u_x+iv_x. \]
次に \(h=i\Delta y\) として虚軸方向から近づくと
\[ f'(z)=\frac{u_y+iv_y}{i}=v_y-iu_y. \]
複素微分では、近づく方向によらず同じ値にならなければならない。二式の実部と虚部を比べると \(u_x=v_y\)、\(v_x=-u_y\)、すなわち上の関係式を得る。計算問題では、まず \(u,v\) を分け、四つの偏導関数を作って二式を照合するのが基本手順である。
一点だけで関係式が成立しても、その点を含む開領域で成立しなければ「正則」とはいえない。
さらに、\(u,v\) が点 \((x_0,y_0)\) で全微分可能なら、Cauchy–Riemann 条件は \(f\) が \(z_0=x_0+iy_0\) で複素微分可能であるための必要十分条件になる。
必要性の証明。 \(f'(z_0)=\alpha+i\beta\) とすると、\(\Delta z=\Delta x+i\Delta y\) に対して
\[ f(z_0+\Delta z) =f(z_0)+(\alpha+i\beta)(\Delta x+i\Delta y)+o(|\Delta z|). \]
実部と虚部を比較すると
\[ \begin{aligned} u(x_0+\Delta x,y_0+\Delta y) &=u(x_0,y_0)+\alpha\Delta x-\beta\Delta y+o(|\Delta z|),\\ v(x_0+\Delta x,y_0+\Delta y) &=v(x_0,y_0)+\beta\Delta x+\alpha\Delta y+o(|\Delta z|). \end{aligned} \]
したがって
\[ u_x=\alpha=v_y,\qquad u_y=-\beta=-v_x. \]
十分性の証明。 逆に \(u,v\) が全微分可能で上の関係を満たすなら、二つの全微分を再び複素数として組み合わせて
\[ f(z_0+\Delta z)-f(z_0) =(u_x+iv_x)\Delta z+o(|\Delta z|) \]
と書ける。両辺を \(\Delta z\) で割って極限を取れば \(f'(z_0)=u_x+iv_x\) が存在する。
ここでは
\[ u=x^2+y^2,\qquad v=2x \]
なので
\[ 2x=0,\qquad 2y=-2. \]
関係式が成立するのは \((x,y)=(0,-1)\) の一点だけであり、どの開領域でも成立しない。したがって \(f\) は正則ではない。
複素数・写像・正則性の演習
後の積分と展開で繰り返し使う基礎をまとめる。多価関数では、値を一つに決める枝を必ず意識する。
理論A1:極形式・指数・対数
非零複素数は \(z=re^{i\theta}\)(\(r=|z|\))と書ける。偏角は \(2\pi\) の整数倍だけ不定なので
\[ \ln z=\ln r+i(\theta+2\pi k),\qquad z^\alpha=\exp(\{\alpha\ln z\}) \]
は一般に多価である。\(n\) 乗根は
\[ w_k=r^{1/n}\exp\left\{i\frac{\theta+2\pi k}{n}\right\},\qquad k=0,1,\ldots,n-1 \]
で全て得られる。複素三角関数は指数関数から
\[ \cos z=\frac{e^{iz}+e^{-iz}}2,\qquad \sin z=\frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i} \]
と定義する。これらと Euler の公式を使えば、実部・虚部・積・冪・根を同じ手順で計算できる。
問題A1 複素数の計算
次を求めよ。
- \(i^i\)、\(\ln(1+i)\)、\(\cos(\pi/3-i)\)、\(\{(1+i)/(1-i)\}^5\)、\(e^{1+3i}e^{2-i}\) の実部と虚部
- \((1+i)^{1/3}\) の極表示
- \(z^4=-1+\sqrt3i\) の解
- 実数 \(\alpha,\beta\) に対し、Euler の公式から \(e^{i\alpha}e^{i\beta}=e^{i(\alpha+\beta)}\) を示せ。
複素対数を \(\ln z=\ln|z|+i(\arg z+2\pi k)\) とすれば
\[ i^i=e^{-\pi/2-2\pi k},\qquad \ln(1+i)=\frac12\ln2+i\left(\frac\pi4+2\pi k\right). \]
したがって \(i^i\) の虚部は \(0\) で、主値は \(e^{-\pi/2}\)。\(\ln(1+i)\) の主値の実部は \(\frac12\ln2\)、虚部は \(\pi/4\) である。また
\[ \cos\left(\frac\pi3-i\right)=\frac12\cosh1+i\frac{\sqrt3}{2}\sinh1, \]
\[ \left(\frac{1+i}{1-i}\right)^5=i,\qquad e^{1+3i}e^{2-i}=e^3(\cos2+i\sin2). \]
根はそれぞれ
\[ (1+i)^{1/3}=2^{1/6}\exp\left\{i\left(\frac\pi{12}+\frac{2\pi k}{3}\right)\right\},\qquad k=0,1,2, \]
\[ z_k=2^{1/4}\exp\left\{i\left(\frac\pi6+\frac{k\pi}{2}\right)\right\},\qquad k=0,1,2,3. \]
最後に Euler の公式と三角関数の加法定理から
\[ (\cos\alpha+i\sin\alpha)(\cos\beta+i\sin\beta) =\cos(\alpha+\beta)+i\sin(\alpha+\beta) \]
を得る。
理論A2:一次分数変換
一次分数変換
\[ w=\frac{az+b}{cz+d},\qquad ad-bc\ne0 \]
は拡張複素平面上の円と直線を円または直線へ写す。実係数で行列式が正の変換は上半平面を保つ。上半平面から単位円への基本変換は
\[ \frac{z-z_0}{z-\overline{z_0}}\qquad(\operatorname{Im}z_0>0), \]
右半平面から単位円への基本変換は
\[ \frac{z-\alpha}{z+\overline\alpha}\qquad(\operatorname{Re}\alpha>0) \]
である。像を円外へ移すには逆数を取り、回転を加えるには絶対値 \(1\) の定数を掛ける。
問題A2 一次分数変換
\(w=(az+b)/(cz+d)\)、\(ad-bc\ne0\) とする。次の領域を互いに一対一に写す係数条件を求めよ。
- 上半平面から上半平面
- 上半平面から単位円内部
- 右半平面から単位円外部
係数の共通非零倍は同じ写像を表す。上半平面の自己同型は
\[ w=\frac{Az+B}{Cz+D},\qquad A,B,C,D\in\mathbb R,\qquad AD-BC>0 \]
で尽くされる。したがって第一の条件は \((a,b,c,d)=\lambda(A,B,C,D)\) となる \(\lambda\ne0\) が存在することである。
上半平面から単位円内部への全ての写像は、\(z_0\in\mathbb H\)、\(\phi\in\mathbb R\) として
\[ w=e^{i\phi}\frac{z-z_0}{z-\overline{z_0}} \]
と書ける。右半平面から単位円外部への全ての写像は、\(\operatorname{Re}\alpha>0\) として
\[ w=e^{i\phi}\frac{z+\overline\alpha}{z-\alpha} \]
と書ける。それぞれ分子・分母の係数を読めば \(a,b,c,d\) の条件になる。
理論A3:枝を持つ関数と正則性
多項式は整関数で、\(\overline z\) を含む式は通常 Cauchy–Riemann 方程式を満たさない。対数や複素冪は、切断を入れて \(\ln z\) の枝を一つ固定した領域で考える。
\[ a^z=e^{z\ln a},\qquad z^\alpha=e^{\alpha\ln z},\qquad \tan^{-1}z=\frac{1}{2i}\{\ln(1+iz)-\ln(1-iz)\}. \]
枝を固定した領域では通常の合成関数として微分できる。正則性を調べる順序は、既知の正則関数へ書き換える → 特異点と枝を除く → 書き換えられなければ Cauchy–Riemann 方程式を調べる、である。
問題A3 正則性と導関数
\(z=x+iy\) とする。次の関数の正則性を調べ、正則な領域では導関数を求めよ。
- \(a^z\)(\(a\) は複素定数)
- \(\tan^{-1}z\)
- \(\overline z\)
- \(|z|^2=z\overline z\)
- \(z^i\)(\(z\ne0\))
- \(z^2\)
- \(x^2-y^2+2ixy\)
- \((x+iy)/(x^2+y^2)\)
- \(a\ne0\) で \(\ln a\) を固定すれば \(a^z=e^{z\ln a}\) は整関数で、\(\dv*{a^z}{z}=(\ln a)a^z\)。
- \(\tan^{-1}z=(2i)^{-1}\{\ln(1+iz)-\ln(1-iz)\}\) は枝を選べる領域で正則で、導関数は \(1/(1+z^2)\)。\(z=\pm i\) は特異点。
- \(\overline z\) はどの開領域でも正則でない。
- \(|z|^2\) は原点でのみ複素微分可能だが、どの開領域でも正則でない。
- \(z^i=e^{i\ln z}\) は対数の枝を固定できる領域で正則で、導関数は \(iz^{i-1}\)。
- \(z^2\) は整関数で、導関数は \(2z\)。
- 与式は \(z^2\) なので整関数で、導関数は \(2z\)。
- 与式は \(1/\overline z\) なので、\(z\ne0\) のどの開領域でも正則でない。
理論A4:調和共役
\(f=u+iv\) が正則なら
\[ u_x=v_y,\qquad u_y=-v_x \]
であり、実部 \(u\) は \(u_{xx}+u_{yy}=0\) を満たす。\(u\) から \(f\) を復元するには、\(v_y=u_x\) を \(y\) で積分し、その積分定数を \(x\) の関数として \(v_x=-u_y\) で決める。最後に既知の \(z\) の式へまとめる。
問題A4 実部から正則関数を復元する
\(x/(x^2+y^2)\)、\(e^x\cos y\)、\(\ln|z|\) をそれぞれ実部にもつ正則関数を求めよ。
Cauchy–Riemann 方程式から調和共役を求めると
\[ f(z)=\frac1z+iC,\qquad f(z)=e^z+iC,\qquad f(z)=\ln z+iC \]
となる。\(C\) は実定数で、第一式は \(z\ne0\)、第三式は対数の枝を固定できる領域で正則である。
Cauchy の積分公式と Liouville の定理
基本例:有界な整関数
Liouville の定理について説明せよ。また、\(f(z)=\sin |z|\) が複素平面上で正則であるかどうかを、Liouville の定理に基づいて判別せよ。
Liouville の定理は「複素平面全体で正則な関数(整関数)が有界なら、その関数は定数である」という定理である。その証明に必要な複素積分から順に準備する。
1. 複素積分。 複素平面上の曲線 \(C\) を
\[ z=\gamma(t)\qquad(a\le t\le b) \]
と媒介変数表示する。曲線に沿う積分は
\[ \int_C f(z)\,\dd z =\int_a^b f(\gamma(t))\gamma'(t)\,\dd t \]
で定義する。つまり、実数の定積分へ直して計算する。始点と終点が一致する曲線を閉曲線といい、閉曲線上の積分を \(\oint_C\) と書く。曲線の向きを逆にすると積分の符号が反転する。
2. Cauchy の積分定理。 穴のない領域で \(f\) が正則なら、その領域内の閉曲線 \(C\) に対して
\[ \oint_C f(z)\,\dd z=0 \]
が成り立つ。ここでは「正則性が閉路積分を消す」理由を、まず直感的な Green の定理で見る。\(f(z)=u(x,y)+iv(x,y)\)、\(\dd z=\dd x+i\,\dd y\) と書けば
\[ f(z)\,\dd z=(u\,\dd x-v\,\dd y)+i(v\,\dd x+u\,\dd y). \]
したがって実部と虚部は、それぞれベクトル場 \((u,-v)\) と \((v,u)\) の周回積分である。Green の定理により、その「回転」は
\[ -v_x-u_y,\qquad u_x-v_y \]
となる。Cauchy–Riemann 方程式 \(u_x=v_y\)、\(u_y=-v_x\) によってどちらも \(0\) だから、両方の周回積分が消える。すなわち
\[ \boxed{\text{正則性}\ \Rightarrow\ \text{二つのベクトル場が無回転}\ \Rightarrow\ \oint_C f(z)\,\dd z=0}. \]
ただし Green の定理を直接使うには偏導関数の連続性を仮定する。正則性だけで成立する厳密な版が Goursat の定理 である。三角形を四つに分け、境界積分の絶対値が最も大きい小三角形を選ぶことを繰り返すと、一点 \(z_*\) へ縮む三角形列が得られる。正則性から
\[ f(z)=f(z_*)+\dv{f}{z}(z_*)(z-z_*)+(z-z_*)\eta(z-z_*), \qquad \eta(\zeta)\to0 \]
と書ける。定数項と一次項の閉路積分は \(0\) であり、残りは三角形の直径と周長の積で評価すると任意に小さくなる。よって三角形の境界積分は \(0\)、さらに一般の閉曲線も三角形分割により \(0\) となる。
「穴のない」が必要なのは、例えば \(1/z\) が \(0\) 以外では正則でも
\[ \oint_{|z|=1}\frac{1}{z}\,\dd z=2\pi i \]
となるためである。円の内側に特異点という穴があるので、積分定理は適用できない。
3. Cauchy の積分公式。 \(C\) を反時計回りの単純閉曲線、\(a\) をその内部の点とし、\(f\) が \(C\) とその内部で正則とする。このとき
\[ \boxed{f(a)=\frac{1}{2\pi i}\oint_C\frac{f(z)}{z-a}\,\dd z}. \]
まず \(z=a+Re^{it}\) \((0\le t\le2\pi)\) と置けば、\(\dd z=iRe^{it}\,\dd t\) だから
\[ \oint_C\frac{1}{z-a}\,\dd z =\int_0^{2\pi}\frac{iRe^{it}}{Re^{it}}\,\dd t =2\pi i. \]
次に
\[ g(z)= \begin{cases} \dfrac{f(z)-f(a)}{z-a},&z\ne a,\\[4pt] \dv{f}{z}(a),&z=a \end{cases} \]
とおく。\(g\) は \(a\) でも正則で、\(f(z)=f(a)+(z-a)g(z)\) である。よって
\[ \oint_C\frac{f(z)}{z-a}\,\dd z =f(a)\oint_C\frac{1}{z-a}\,\dd z+\oint_Cg(z)\,\dd z =2\pi i f(a), \]
最後の積分は Cauchy の積分定理で \(0\) になった。境界上の値だけで内部の値 \(f(a)\) が復元される、というのがこの公式の強さである。円の場合には
\[ f(a)=\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}f(a+Re^{it})\,\dd t \]
となり、中心の値は円周上の値の平均に等しい。
4. 微分公式と Cauchy の評価式。 積分公式に \(a+h\) を入れて差商を取り、\(h\to0\) とすると
\[ \dv{f}{z}(a)=\frac{1}{2\pi i}\oint_C\frac{f(w)}{(w-a)^2}\,\dd w. \]
同じ操作を繰り返すと、一般に
\[ \dv[n]{f}{z}(a)=\frac{n!}{2\pi i}\oint_C \frac{f(w)}{(w-a)^{n+1}}\,\dd w. \]
これは Taylor 展開の係数抽出でもある。分母 \((w-a)^{n+1}\) によって \(1/(w-a)\) の項、すなわち \(n\) 次係数だけが閉曲線積分に残る。中心 \(a\)、半径 \(R\) の円周上で \(|f(w)|\le M\) なら、円周の長さが \(2\pi R\) であることから
\[ \left|\dv[n]{f}{z}(a)\right|\le \frac{Mn!}{R^n} \]
を得る。
5. Liouville の定理。 整関数 \(f\) が複素平面全体で \(|f(z)|\le M\) を満たすとする。任意の点 \(a\) と任意の半径 \(R>0\) に対して、一階の微分公式から
\[ \left|\dv{f}{z}(a)\right| \le\frac{1}{2\pi}\cdot\frac{M}{R^2}\cdot2\pi R =\frac{M}{R}. \]
整関数では円をいくらでも大きく取れる。\(R\to\infty\) とすれば \(\dv{f}{z}(a)=0\) であり、\(a\) は任意だったから \(f\) は定数である。流れをまとめると
\[ \boxed{\text{Cauchy の積分定理}\Rightarrow\text{積分公式}\Rightarrow\text{微分公式}\Rightarrow\text{Liouville の定理}}. \]
この例の \(|z|\) は常に実数なので、\(\sin |z|\) は \(-1\) 以上 \(1\) 以下で有界である。したがって、もし整関数なら Liouville の定理によって定数でなければならない。
\(f(0)=0\) である一方、\(f(\pi/2)=1\) なので \(f\) は定数ではない。それにもかかわらず \(|f(z)|\le 1\) であるから、Liouville の定理の対偶より
\[ f(z)=\sin |z| \]
は複素平面上で正則ではない。
Cauchy 理論から従う重要な定理
積分公式の平均値表示から、非定数正則関数の \(|f|\) は領域内部で最大値を取らないという最大値の原理が従う。もし \(z_0\) が真の最大点なら
\[ |f(z_0)| \le\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}|f(z_0+re^{i\theta})|\,\dd \theta <|f(z_0)| \]
となり矛盾する。
逆向きには、連続関数 \(f\) が全ての閉曲線で \(\oint_Cf(z)\,\dd z=0\) を満たせば、経路積分で原始関数を構成できるため \(f\) は正則になる。これが Morera の定理である。
また、正則関数が恒等的に \(0\) でなければ、その零点は孤立する。零点が集積点を持つ二つの正則関数が一致すれば、Taylor 展開の係数が全て一致するため領域全体で一致する。これが一致の定理である。Liouville の定理を \(1/P(z)\) に適用すれば、非定数多項式 \(P\) が少なくとも一つ零点を持つという代数学の基本定理も得られる。
Taylor 展開・Laurent 展開の演習
理論B:基本級数・収束半径・特異点
正則関数の冪級数は収束円内で項別に微分・積分でき、Taylor 係数は Cauchy の微分公式から
\[ c_n=\frac{1}{2\pi i}\oint_C\frac{f(w)}{(w-z_0)^{n+1}}\,\dd w =\frac{1}{n!}\dv[n]{f}{z}(z_0) \]
と求まる。中心から最も近い特異点までの距離が収束半径になる。孤立特異点では Laurent 展開の負冪がなくなれば可除、有限個なら極、無限個なら真性特異点である。
計算では次の基本級数を中心へ平行移動して使う。
\[ \frac1{1-w}=\sum_{n=0}^{\infty}w^n,\qquad e^w=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{w^n}{n!}, \]
\[ \sin w=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^nw^{2n+1}}{(2n+1)!},\qquad \cos w=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^nw^{2n}}{(2n)!}, \]
\[ (1+w)^a=\sum_{n=0}^{\infty}\binom an w^nqquad(|w|<1). \]
積・商では Cauchy 積または等比級数を使う。特異点を中心とする場合は \(w=z-z_0\) と置き、\(w^{-1}\) の係数を読めば留数、最も低い負冪を見れば極の位数、負冪が無限なら真性特異点と判定できる。
問題B
次を指定された点の周りで展開し、必要に応じて収束半径・極の位数・留数を求めよ。
- \((1+z)^a\)、中心 \(0\)
- \((1-\cos z)/z^2\)、中心 \(0\)
- \(\sin^2z\)、中心 \(0\)
- \(e^z/(z-1)^4\)、中心 \(1\)
- \(\tan z\)、中心 \(0\)
- \(z^2/(z^3+2)\)、中心 \(0\)
- \(z\sin\{1/(1+z)\}\)、中心 \(-1\)
- \(e^z/(1+z)\)、中心 \(0\)
- \(3/\{(z+1)(z-2)\}\)、中心 \(2\)
- \(1/z\)、中心 \(1\)
- \(1/(1+z^2)\)、中心 \(i\)
- \(z\cos\{1/(z-1)\}\)、中心 \(1\)
- \(\sin z/z^2\)、中心 \(0\)
1. 二項級数。
\[ (1+z)^a=\sum_{n=0}^{\infty}\binom an z^n =1+az+\frac{a(a-1)}{2!}z^2+\cdots,\qquad |z|<1. \]
\(a\) が非負整数なら有限和となり収束半径は無限大である。
2–3. 三角関数。
\[ \frac{1-\cos z}{z^2} =\frac12-\frac{z^2}{4!}+\frac{z^4}{6!}-\cdots \]
なので \(z=0\) は可除特異点である。また
\[ \sin^2z=\frac{1-\cos2z}{2} =z^2-\frac{z^4}{3}+\frac{2z^6}{45}-\cdots. \]
4. 四位の極。 \(w=z-1\) と置けば
\[ \frac{e^z}{(z-1)^4} =e\frac{e^w}{w^4} =e\sum_{n=0}^{\infty}\frac{w^{n-4}}{n!}. \]
\(z=1\) は四位の極で、\(w^{-1}\) の係数より留数は \(e/3!\)。
5–6. 原点の Taylor 展開。
\[ \tan z=z+\frac{z^3}{3}+\frac{2z^5}{15}+\frac{17z^7}{315}+\cdots,\qquad |z|<\frac\pi2, \]
\[ \frac{z^2}{z^3+2} =\frac{z^2}{2}\sum_{n=0}^{\infty}\left(-\frac{z^3}{2}\right)^n =\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{2^{n+1}}z^{3n+2},\qquad |z|<2^{1/3}. \]
7. 真性特異点。 \(w=z+1\) と置くと
\[ z\sin\frac1{1+z} =(w-1)\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n+1)!}w^{-(2n+1)}. \]
負冪が無限に現れるので \(z=-1\) は真性特異点であり、\(w^{-1}\) の係数から留数は \(-1\) である。
8. 商の Taylor 展開。
\[ \frac{e^z}{1+z} =\left(\sum_{k=0}^{\infty}\frac{z^k}{k!}\right) \left(\sum_{m=0}^{\infty}(-z)^m\right) =\sum_{n=0}^{\infty}\left\{\sum_{k=0}^{n}\frac{(-1)^{n-k}}{k!}\right\}z^n,\qquad |z|<1. \]
9. 単純極。 \(w=z-2\) とすれば
\[ \frac{3}{(z+1)(z-2)} =\frac1w-\frac1{w+3} =\frac1w-\frac13\sum_{n=0}^{\infty}\left(-\frac w3\right)^n,\qquad 0<|w|<3. \]
留数は \(1\)。
10. 中心が特異点でない場合。
\[ \frac1z=\frac1{1+(z-1)} =\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^n(z-1)^n,\qquad |z-1|<1. \]
11. 単純極 \(z=i\)。 \(w=z-i\) とすれば
\[ \frac1{1+z^2} =\frac1{w(w+2i)} =\frac1{2iw}\sum_{n=0}^{\infty}\left(-\frac{w}{2i}\right)^n,\qquad 0<|w|<2. \]
留数は \(1/(2i)\)。
12. 真性特異点 \(z=1\)。 \(w=z-1\) とすれば
\[ z\cos\frac1{z-1} =(1+w)\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n)!}w^{-2n}. \]
負冪が無限に現れるので \(z=1\) は真性特異点であり、\(w^{-1}\) の係数から留数は \(-1/2\) である。
13. 単純極 \(z=0\)。
\[ \frac{\sin z}{z^2}=\frac1z-\frac z{3!}+\frac{z^3}{5!}-\cdots. \]
留数は \(1\) である。
留数定理と単位円上の積分
基本例:三角関数を含む定積分
\(a>1\) とする。複素積分を用いて
\[ \int_{-\pi}^{\pi}\frac{\dd x}{a+\cos x} \]
を求めよ。
実積分を単位円上の複素積分へ移す。 Euler の公式より
\[ z=e^{ix}=\cos x+i\sin x \]
は常に \(|z|=1\) を満たす。\(x\) が \(-\pi\) から \(\pi\) まで増えると、\(z\) は単位円を反時計回りに一周する。また
\[ \dd z=ie^{ix}\,\dd x=iz\,\dd x,\qquad \dd x=\frac{\dd z}{iz},\qquad \cos x=\frac12\left(z+\frac1z\right) \]
なので
\[ \int_{-\pi}^{\pi}\frac{\dd x}{a+\cos x} =\frac{2}{i}\oint_{|z|=1}\frac{\dd z}{z^2+2az+1} \]
と、有理関数の閉路積分へ変わる。
一般形も同じ計算で求まる。 \(a>|b|\)(したがって \(a^2-b^2>0\))なら
\[ I(a,b)=\int_0^{2\pi}\frac{\dd \theta}{a+b\cos\theta} \]
に対し、\(z=e^{i\theta}\)、\(\dd \theta=\dd z/(iz)\) を代入すると
\[ \begin{aligned} I(a,b) &=\oint_{|z|=1} \frac{1}{a+\dfrac b2\left(z+\dfrac1z\right)}\frac{\dd z}{iz}\\ &=\frac{2}{i}\oint_{|z|=1} \frac{\dd z}{bz^2+2az+b}. \end{aligned} \]
\(b\ne0\) とすると分母の零点は
\[ z_\pm=\frac{-a\pm\sqrt{a^2-b^2}}{b} \]
であり、\(z_+z_-=1\) だから一方だけが単位円の内部にある。\(a>|b|\) のとき内部の極は \(z_+\) である。単純極の留数は
\[ \underset{z=z_+}{\operatorname{Res}} \frac{1}{bz^2+2az+b} =\frac{1}{2bz_++2a} =\frac{1}{2\sqrt{a^2-b^2}} \]
となる。よって留数定理から
\[ \begin{aligned} \int_0^{2\pi}\frac{\dd \theta}{a+b\cos\theta} &=\frac{2}{i}\cdot 2\pi i\cdot \frac{1}{2\sqrt{a^2-b^2}}\\ &=\boxed{\frac{2\pi}{\sqrt{a^2-b^2}}}. \end{aligned} \]
\(b=0\) のときも左辺は \(2\pi/a\) であり、この式に一致する。この例は \(b=1\)、積分区間を \([-\pi,\pi]\) に取り直した場合である。
特異点と留数を調べる。 分母の零点は
\[ z_{\pm}=-a\pm\sqrt{a^2-1} \]
である。\(a>1\) のとき
\[ |z_+|=a-\sqrt{a^2-1} =\frac{1}{a+\sqrt{a^2-1}}<1 \]
であり、\(z_-=-a-\sqrt{a^2-1}\) は単位円外にある。したがって円内で考える極は \(z_+\) の一つだけである。
Cauchy の積分定理から留数定理へ進む。 Cauchy の積分公式の節では、特異点のない領域なら閉路積分が \(0\) になることを示した。特異点 \(z_j\) がある場合は、それぞれを小円 \(C_j\) でくり抜き、外周 \(C\) と小円を細いブリッジで結ぶ。ブリッジの往復は打ち消し合うため
\[ \oint_C h(z)\,\dd z=\sum_j\oint_{C_j}h(z)\,\dd z \]
となる。各特異点の周りで Laurent 展開
\[ h(z)=\sum_{n=-\infty}^{\infty}c_n(z-z_j)^n \]
を行うと、小円積分で残るのは \(c_{-1}(z-z_j)^{-1}\) だけである。この係数 \(c_{-1}\) を \(\operatorname{Res}(h,z_j)\) と書き、留数と呼ぶ。実際、
\[ \oint_{|z-z_j|=\varepsilon}\frac{\dd z}{z-z_j}=2\pi i \]
だから
\[ \boxed{\displaystyle \oint_C h(z)\,\dd z=2\pi i\sum_j\operatorname{Res}(h,z_j)} \]
を得る。
単純極の留数公式。 \(h(z)=P(z)/Q(z)\) で \(Q(z_0)=0\)、\(Q'(z_0)\ne0\) なら、\(Q(z)=Q'(z_0)(z-z_0)+\cdots\) だから
\[ \operatorname{Res}(h,z_0)=\frac{P(z_0)}{Q'(z_0)} \]
とすぐ計算できる。この例では \(Q(z)=z^2+2az+1\) なので
\[ \operatorname{Res}\left(\frac1Q,z_+\right) =\frac{1}{2z_++2a} =\frac{1}{2\sqrt{a^2-1}}. \]
したがって答案は、単位円へ変換する → 円内の極を選ぶ → 留数を求める → \(2\pi i\) を掛けるの順に組み立てればよい。
\[ \begin{aligned} \int_{-\pi}^{\pi}\frac{\dd x}{a+\cos x} &=\frac{2}{i}\oint_{|z|=1}\frac{\dd z}{z^2+2az+1}\\ &=\frac{2\pi}{\sqrt{a^2-1}}. \end{aligned} \]
上半円経路による実軸積分
基本例:実軸上の有理関数
\(-1<a<1\) とする。複素積分を用いて
\[ \int_{-\infty}^{\infty}\frac{\dd x}{x^2+2ax+1} \]
を求めよ。
実軸積分を上半円で囲み、留数に変える。 求める積分を
\[ I=\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\dd x}{x^2+2ax+1} \]
とする。まず \(b=\sqrt{1-a^2}>0\) と置けば
\[ x^2+2ax+1=(x+a)^2+b^2 \]
である。複素関数
\[ f(z)=\frac{1}{z^2+2az+1} =\frac{1}{(z+a-ib)(z+a+ib)} \]
を考えると、極は
\[ z_+=-a+ib,\qquad z_-=-a-ib \]
の二つである。実軸を挟んで上下に一つずつあり、上半平面にあるのは \(z_+\) だけである。
半径 \(R\) の上半円弧を \(\Gamma_R\) とし、実軸の区間 \([-R,R]\) と合わせた反時計回りの閉曲線を \(C_R\) とする。\(R>|z_+|\) なら、留数定理から
\[ \oint_{C_R}f(z)\,\dd z =2\pi i\operatorname{Res}(f,z_+). \]
ここで閉曲線積分は、欲しい実軸部分と上半円部分に分かれる。
\[ \oint_{C_R}f(z)\,\dd z =\int_{-R}^{R}\frac{\dd x}{x^2+2ax+1} +\int_{\Gamma_R}\frac{\dd z}{z^2+2az+1}. \]
上半円の寄与が消える理由。 \(\Gamma_R\) 上では \(|z|=R\) なので、分母は主項 \(z^2\) により大きさが \(R^2\) 程度になる。一方で円弧の長さは \(\pi R\) である。したがって積分全体は「\(R^{-2}\) の関数を長さ \(R\) の道に沿って積分する」ので \(O(R^{-1})\) となり、\(R\to\infty\) で消える。
厳密には逆三角不等式から
\[ \begin{aligned} |z^2+2az+1| &\ge |z|^2-|2az+1|\\ &\ge R^2-2|a|R-1. \end{aligned} \]
よって十分大きい \(R\) では
\[ \left|\frac{1}{z^2+2az+1}\right| \le\frac{1}{R^2-2|a|R-1}. \]
円弧の長さが \(\pi R\) であることと \(ML\) 評価を使うと
\[ \left|\int_{\Gamma_R}\frac{\dd z}{z^2+2az+1}\right| \le\frac{\pi R}{R^2-2|a|R-1} =\frac{\pi/R}{1-2|a|/R-1/R^2} \longrightarrow0. \]
したがって極限では実軸積分だけが残る。残る留数は、単純極の公式または因数分解から
\[ \operatorname{Res}(f,z_+) =\frac{1}{z_+-z_-} =\frac{1}{2ib} \]
である。ゆえに
\[ I=2\pi i\cdot\frac{1}{2ib}=\frac{\pi}{b}. \]
最後に \(b=\sqrt{1-a^2}\) を戻せば答えを得る。流れは
\[ \boxed{\text{実軸積分}\ \Rightarrow\ \text{上半円で閉じる}\ \Rightarrow\ \text{上側の極の留数}\ \Rightarrow\ \text{円弧を消す}} \]
である。一般に、円弧上で \(f(z)=O(|z|^{-p})\)、\(p>1\) なら、円弧の長さが \(O(R)\) なので円弧積分は \(O(R^{1-p})\to0\) となる。
上半平面内の留数は
\[ \underset{z=-a+ib}{\operatorname{Res}} \frac{1}{(z+a)^2+b^2}=\frac{1}{2ib} \]
である。よって
\[ \boxed{ \int_{-\infty}^{\infty}\frac{\dd x}{x^2+2ax+1} =\frac{\pi}{\sqrt{1-a^2}} }. \]
複素積分と実定積分の演習
以下では、実軸上に極がある場合に「通常の広義積分」と「Cauchy の主値」を区別する。実軸上の極を対称に避けた極限だけが存在するときは \(\operatorname{p.v.}\) と書く。
理論C1:経路積分の二つの計算法
原始関数 \(F\) があれば \(\int_Cf(z)\,\dd z=F(z_1)-F(z_0)\) で求められる。閉曲線が特異点を囲む場合は
\[ \oint_C\frac{f(z)}{(z-a)^{n+1}}\,\dd z =\frac{2\pi i}{n!}\dv[n]{f}{z}(a) \]
を使う。最初に「原始関数で終わるか」「閉曲線内に極があるか」を判定する。
問題C1 経路積分
- \(z/(1+z)\) を \(0\) から \(1+i\) までの線分に沿って積分せよ。
- \(e^{iz}/(z-\pi)^3\) を \(|z-3|=1\) 上で反時計回りに積分せよ。
\(z/(1+z)=1-1/(1+z)\) の原始関数を使うと
\[ \int_0^{1+i}\frac{z}{1+z}\,\dd z =1+i-\ln(2+i) =1-\frac12\ln5+i\left(1-\tan^{-1}\frac12\right). \]
第二問では \(|\pi-3|<1\) なので極は曲線内にある。Cauchy の微分公式より
\[ \oint_{|z-3|=1}\frac{e^{iz}}{(z-\pi)^3}\,\dd z =\frac{2\pi i}{2!}\left.\dv[2]{}{z}e^{iz}\right|_{z=\pi} =\pi i. \]
理論C2:実積分に合う積分路
有理関数だけなら上半円、\(e^{ikz}\) を含み \(k>0\) なら指数が減衰する上半平面、\(x^\alpha\) を含むなら鍵穴型、\(x^4\) の対称性を使うなら扇形を候補にする。閉曲線積分は
\[ \oint_Cf(z)\,\dd z=2\pi i\sum\operatorname{Res}(f;z_j) \]
であり、円弧部分は \(ML\) 評価または Jordan の補題で消す。実軸上に単純極があるときは小半円で避け、その寄与 \(\pm i\pi\operatorname{Res}\) を含めて主値を計算する。通常の広義積分が存在するかは、主値を計算する前に片側極限で確認する。
問題C2 留数で求める定積分
次を求めよ。実軸上に極があるものは必要に応じて Cauchy の主値を取る。
- \(\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\cos x}{x^2+1}\,\dd x\)
- \(\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\frac{x}{1-x^3}\,\dd x\)
- \(\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\frac{x}{8-x^3}\,\dd x\)
- \(\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\sin\pi x}{x^2+x+1}\,\dd x\)
- \(\displaystyle\int_0^{2\pi}\frac{\dd \theta}{2+\cos\theta}\)
- \(\displaystyle\int_0^\infty\frac{\dd x}{1+x^4}\)
- \(\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\dd x}{x^2-ix}\)
- \(\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\dd x}{x^2+x+1}\)
- \(\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\dd x}{(x^2+1)(x^2-3x+2)}\)
- \(\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\dd x}{(1+x^2)^2}\)
- \(\displaystyle\int_0^\infty\frac{x\sin x}{1+x^2}\,\dd x\)
- \(\displaystyle\int_0^\infty\frac{\sin^2x}{x^2}\,\dd x\)
- \(\displaystyle\int_0^\infty\frac{x^2}{x^4+5x^2+4}\,\dd x\)
- \(\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\dd x}{x^2-2x+2}\)
- \(\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\frac{x\sin(ax)}{x^2+x+1}\,\dd x\)(\(a>0\))
- \(\displaystyle\int_0^{2\pi}\frac{\dd \theta}{1-2a\sin\theta+a^2}\)
- \(\displaystyle\int_0^\infty\frac{x^\alpha}{x^2+x+1}\,\dd x\)(\(-1<\alpha<1\))
基本方針は、\(e^{ikz}\) を含む積分では \(k>0\) なら上半平面、偶関数の有理積分では上半平面または扇形を使うことである。結果は次の通り。
\[ \begin{aligned} 1.&\quad \frac\pi e,\\ 2.&\quad \operatorname{p.v.}\int_{-\infty}^{\infty}\frac{x}{1-x^3}\,\dd x=-\frac\pi{\sqrt3},\\ 3.&\quad \operatorname{p.v.}\int_{-\infty}^{\infty}\frac{x}{8-x^3}\,\dd x=-\frac\pi{2\sqrt3},\\ 4.&\quad -\frac{2\pi}{\sqrt3}e^{-\pi\sqrt3/2},\\ 5.&\quad \frac{2\pi}{\sqrt3},\\ 6.&\quad \frac{\pi}{2\sqrt2},\\ 7.&\quad \operatorname{p.v.}\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\dd x}{x^2-ix}=\pi,\\ 8.&\quad \frac{2\pi}{\sqrt3},\\ 9.&\quad \operatorname{p.v.}\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\dd x}{(x^2+1)(x^2-3x+2)}=\frac\pi{10},\\ 10.&\quad \frac\pi2,\\ 11.&\quad \frac\pi{2e},\\ 12.&\quad \frac\pi2,\\ 13.&\quad \frac\pi6,\\ 14.&\quad \pi. \end{aligned} \]
第2、3、7、9問は実軸上に極があるため通常の広義積分は発散し、上記は主値である。第15問は上半平面の極 \((-1+i\sqrt3)/2\) を用いて
\[ \int_{-\infty}^{\infty}\frac{x\sin(ax)}{x^2+x+1}\,\dd x =\frac\pi{\sqrt3}e^{-\sqrt3a/2} \left\{\sin\frac a2+\sqrt3\cos\frac a2\right\}. \]
第16問は \(|a|<1\) で
\[ \int_0^{2\pi}\frac{\dd \theta}{1-2a\sin\theta+a^2} =\frac{2\pi}{1-a^2}. \]
問題文の端点 \(a=-1\) では分母が \(\theta=3\pi/2\) で零になるため積分は発散する。第17問は鍵穴型経路または既知の Mellin 積分から
\[ \int_0^\infty\frac{x^\alpha}{x^2+x+1}\,\dd x =\frac{2\pi}{\sqrt3}\frac{\sin(\pi\alpha/3)}{\sin(\pi\alpha)}, \qquad -1<\alpha<1, \]
となる。\(\alpha=0\) では右辺を極限で解釈し、\(2\pi/(3\sqrt3)\) を得る。
理論C3:扇形で積分方向を回転する
整関数を扇形境界で積分すると全周積分は \(0\) である。斜辺 \(z=re^{i\phi}\) では \(z^2=r^2e^{2i\phi}\)、\(\dd z=e^{i\phi}\dd r\) となる。角度 \(\phi\) を選ぶことで実 Gauss 積分と振動積分を結び付け、残る円弧を評価して \(R\to\infty\) とすればよい。
問題C3 45度の扇形経路
中心角 \(\pi/4\)、半径 \(R\) の扇形で \(e^{-z^2}\) を積分し、
\[ I=\int_0^\infty e^{-ix^2}\,\dd x \]
を求めよ。
\(e^{-z^2}\) は整関数なので扇形境界の積分は \(0\)。実軸部分は \(\int_0^R e^{-x^2}\,\dd x\)、斜辺を \(z=re^{i\pi/4}\) と逆向きにたどる部分は
\[ -e^{i\pi/4}\int_0^R e^{-ir^2}\,\dd r \]
である。円弧部分は \(R\to\infty\) で消えるから
\[ \frac{\sqrt\pi}{2}-e^{i\pi/4}I=0. \]
したがって
\[ \boxed{I=\frac{\sqrt\pi}{2}e^{-i\pi/4} =\frac{\sqrt\pi}{2\sqrt2}(1-i)}. \]
理論C4:同じ積分を別の変換で見る
\(\sin x/x\) は、複素積分では \(e^{iz}/z\) の原点回避、Fourier 変換では矩形関数の逆変換、Laplace 変換では積分順序の交換から現れる。三手法を比べると、留数・周波数の再構成・パラメータ積分が同じ値を与えることを確認できる。
問題C4 Dirichlet 積分を三通りで求める
\[ \int_0^\infty\frac{\sin x}{x}\,\dd x \]
を、複素積分、区間 \([-1,1]\) の指示関数の Fourier 変換、\(g(t)=\int_0^\infty\sin(xt)/x\,\dd x\) の Laplace 変換の三通りで求めよ。
いずれも
\[ \boxed{\int_0^\infty\frac{\sin x}{x}\,\dd x=\frac\pi2} \]
を与える。
複素積分では \(e^{iz}/z\) を上半円で積分し、原点を小半円で避ける。大円弧は Jordan の補題で消え、小半円が \(-i\pi\) を与えるので実軸積分の虚部から \(\pi/2\) を得る。
本ノートの規格化 \(F(k)=(2\pi)^{-1}\int f(x)e^{-ikx}\,\dd x\) では、\(f=\boldsymbol1_{[-1,1]}\) の変換は \(F(k)=\sin k/(\pi k)\)。逆変換を \(x=0\) で評価すると
\[ 1=\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\sin k}{\pi k}\,\dd k \]
となる。Laplace 法では \(s>0\) として積分順序を交換すると
\[ \mathcal L[g](s) =\int_0^\infty\frac1x\frac{x}{s^2+x^2}\,\dd x =\frac\pi{2s}. \]
逆変換より \(g(t)=\pi/2\)(\(t>0\))である。
Fourier 変換の基本計算
基本例:指数減衰する奇関数
\(a>0\) とする。実関数 \(f(x)=xe^{-a|x|}\) のフーリエ変換
\[ F(k)=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}f(x)e^{-ikx}\,\dd x \]
を求めよ。
フーリエ変換の意味。 \(e^{ikx}\) は波数 \(k\) の複素正弦波であり、フーリエ変換は関数を「どの波数の波がどれだけ含まれるか」という表示へ移す操作である。この例の規約では
\[ F(k)=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}f(x)e^{-ikx}\,\dd x. \]
Euler の公式から \(e^{-ikx}=\cos(kx)-i\sin(kx)\) である。実数値の偶関数の変換は実数値、実数値の奇関数の変換は純虚数になる。この例の \(xe^{-a|x|}\) は奇関数なので、答えが純虚数になることは検算にも使える。
まず \(x\) のない基本積分を計算する。 \(x=0\) で二つに分け、負の側では \(x\mapsto-x\) と変数変換すると
\[ \begin{aligned} J(k) &=\int_{-\infty}^{\infty}e^{-a|x|}e^{-ikx}\,\dd x\\ &=\int_0^\infty e^{-(a+ik)x}\,\dd x +\int_0^\infty e^{-(a-ik)x}\,\dd x\\ &=\frac{1}{a+ik}+\frac{1}{a-ik}\\ &=\frac{2a}{a^2+k^2} \end{aligned} \]
を得る。\(a>0\) なので指数関数が無限遠で減衰し、二つの積分は収束する。
\(x\) は \(k\) 微分で作る。 指数関数を \(k\) で微分すると
\[ \frac{\partial}{\partial k}e^{-ikx}=-ixe^{-ikx} \]
だから
\[ J'(k)=-i\int_{-\infty}^{\infty}xe^{-a|x|}e^{-ikx}\,\dd x \]
となり、求める積分は \(iJ'(k)\) で得られる。
この微分を積分の内側へ入れられるのは、\(e^{-a|x|}\) と \(|x|e^{-a|x|}\) がともに可積分で、差分商を \(k\) によらない可積分関数で抑えられるためである。
より一般に、全ての \(m,n\) について \(x^m f^{(n)}(x)\) が有界な急減少関数では、部分積分を繰り返すことでフーリエ変換も任意の冪より速く減衰する。この例では \(x=0\) で積分を二つに分ければ、同じ「指数減衰が境界項と交換操作を正当化する」という考え方を使える。
答案は、基本積分 \(J\) を求める → \(k\) で微分して \(x\) を作る → 規格化係数 \(1/(2\pi)\) を掛けるという三段階でよい。
\[ \begin{aligned} F(k) &=\frac{i}{2\pi}J'(k)\\ &=-\frac{2iak}{\pi(a^2+k^2)^2}. \end{aligned} \]
追加例:双曲線関数を含む Fourier 変換
\(a>b>0\) とする。実関数
\[ f(x)=e^{-a|x|}\cosh(bx) \]
のフーリエ変換
\[ F(k)=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}f(x)e^{-ikx}\,\dd x \]
を求めよ。
双曲線余弦は
\[ \cosh y=\frac{e^y+e^{-y}}{2} \]
で定義され、偶関数である。この定義と \(|x|\) を使うと
\[ e^{-a|x|}\cosh(bx) =\frac{1}{2}\left(e^{-(a-b)|x|}+e^{-(a+b)|x|}\right). \]
となる。あとは 基本例で導いた公式
\[ \int_{-\infty}^{\infty}e^{-c|x|}e^{-ikx}\,\dd x =\frac{2c}{c^2+k^2} \]
を \(c=a-b\) と \(c=a+b\) に適用する。
\[ \boxed{ F(k)=\frac{1}{2\pi} \left[ \frac{a-b}{(a-b)^2+k^2} +\frac{a+b}{(a+b)^2+k^2} \right] }. \]
一つの分数にまとめると
\[ F(k)= \frac{a(a^2-b^2+k^2)} {\pi\{(a-b)^2+k^2\}\{(a+b)^2+k^2\}}. \]
第2部 複素積分と Gauss 和
整数格子上の Gauss 和
正の整数 \(p\) に対して、複素関数
\[ f(z)=\sum_{n=0}^{2p-1}\exp\left[\frac{\pi i}{2p}(z+n)^2\right] \]
を考える。
有限和の差分
\[ g(z)=\frac{f(z)}{e^{2\pi iz}-1},\qquad \phi(z)=g(z+1)-g(z) \]
と定義する。\(\phi(z)\) の具体的な表式を求めよ。
有限和では端の項を追う。 \(f(z+1)\) の和で \(m=n+1\) と置くと
\[ f(z+1)=\sum_{m=1}^{2p} \exp\left[\frac{\pi i}{2p}(z+m)^2\right]. \]
元の \(f(z)\) は \(m=0,\ldots,2p-1\) の和なので、差を取れば途中の項は全て消え、「新しく入る \(m=2p\)」から「消える \(m=0\)」を引くだけになる。
端の項では
\[ (z+2p)^2=z^2+4pz+4p^2 \]
であり、\(p\) が整数だから \(e^{2\pi ip}=1\) となる。したがって
\[ \exp\left[\frac{\pi i}{2p}(z+2p)^2\right] =e^{2\pi iz}\exp\left(\frac{\pi i}{2p}z^2\right) \]
が成り立つ。
また \(e^{2\pi i(z+1)}=e^{2\pi iz}\) なので、\(g(z+1)\) と \(g(z)\) の分母は同じである。よって
\[ \phi(z) =\frac{f(z+1)-f(z)}{e^{2\pi iz}-1} \]
とまとめられ、分子にも同じ因子が現れて消える。分母が \(0\) になる点でも、約分後の正則関数をその値として定め直せる。このような直せる特異点を可除特異点という。
\[ f(z+1)-f(z) =(e^{2\pi iz}-1)\exp\left(\frac{\pi i}{2p}z^2\right) \]
より、可除特異点を除けば
\[ \boxed{\phi(z)=\exp\left(\frac{\pi i}{2p}z^2\right)}. \]
斜め経路上の Gauss 積分
\(R>0\) とし、\(\ell_R\) を \(-Re^{\pi i/4}\) から \(Re^{\pi i/4}\) までの直線経路とする。次の極限を求めよ。
\[ \lim_{R\to\infty}\int_{\ell_R}\phi(z)\,\dd z \]
複素積分は 曲線の媒介変数表示で実積分へ戻せる。経路を \(z=re^{\pi i/4}\)(\(-R\le r\le R\))と置くと
\[ z^2=ir^2,\qquad \dd z=e^{\pi i/4}\,\dd r. \]
複素指数関数が実 Gauss 関数 \(e^{-\pi r^2/(2p)}\) に変わるのが、この角度を選ぶ理由である。
ここで使う Gauss 積分は、\(\alpha>0\) に対して
\[ \int_{-\infty}^{\infty}e^{-\alpha r^2}\,\dd r =\sqrt{\frac{\pi}{\alpha}} \]
である。左辺を \(I\) として \(I^2\) を平面上の二重積分にし、極座標へ変換すると
\[ I^2 =\int_0^{2\pi}\int_0^\infty e^{-\alpha\rho^2}\rho\,\dd \rho\,\dd \theta =\frac{\pi}{\alpha} \]
となるので得られる。この例では \(\alpha=\pi/(2p)\) である。
\[ \begin{aligned} \lim_{R\to\infty}\int_{\ell_R}\phi(z)\,\dd z &=e^{\pi i/4}\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\pi r^2/(2p)}\,\dd r\\ &=\boxed{\sqrt{2p}\,e^{\pi i/4}}. \end{aligned} \]
留数定理による Gauss 和
留数定理と前節の斜め経路積分を用いて
\[ f(0)=\sum_{n=0}^{2p-1}e^{\pi in^2/(2p)} \]
を求めよ。
留数定理とその証明を、この問題では平行四辺形の積分路に適用する。
\(g(z)\) の分母 \(e^{2\pi iz}-1\) は整数点で単純零点を持つ。\(Q(z)=e^{2\pi iz}-1\) とすれば \(Q'(0)=2\pi i\) なので、単純極の留数公式から
\[ \operatorname{Res}(g,0)=\frac{f(0)}{2\pi i} \]
となる。
幅 \(1\) の平行四辺形を取り、向かい合う斜辺の積分を同じ向きにそろえて差を取ると
\[ g(z+1)-g(z)=\phi(z) \]
でまとめられる。残る二辺では指数減衰により積分が \(R\to\infty\) で消える。したがって「平行四辺形の閉路積分 = 【2】の斜め積分」となり、一方で留数定理から閉路積分は \(2\pi i\operatorname{Res}(g,0)=f(0)\) になる。これが有限和を Gauss 積分で求められる仕組みである。
留数定理と前節の斜め経路積分より
\[ \boxed{ f(0)=\sqrt{2p}\,e^{\pi i/4}=(1+i)\sqrt{p} }. \]
半整数ずれの Gauss 和
正の奇数 \(p\) に対して、複素関数
\[ f(z)=\sum_{n=0}^{p-1}\exp\left[\frac{i\pi}{p}(z+n)^2\right] \]
を考える。
有限和の差分
\[ g(z)=\frac{f(z)}{e^{2\pi iz}+1},\qquad \phi(z)=g(z+1)-g(z) \]
と定義する。可除特異点を全て除去し、\(\phi(z)\) を正則関数として表せ。
整数格子の場合と同じく、有限和の添字を一つずらして端の二項だけを比較する。ここでは \(p\) が奇数なので、端の項は
\[ \exp\left[\frac{i\pi}{p}(z+p)^2\right] =-e^{2\pi iz}\exp\left(\frac{i\pi}{p}z^2\right) \]
となる。これと消える最初の項を合わせると、\(g\) の分母 \(e^{2\pi iz}+1\) が因数として現れる。
\[ f(z+1)-f(z) =-(e^{2\pi iz}+1)\exp\left(\frac{i\pi}{p}z^2\right) \]
より
\[ \boxed{ \phi(z)=-\exp\left(\frac{i\pi}{p}z^2\right) }. \]
斜め経路上の Gauss 積分
\(\ell_R\) を \(-Re^{i\pi/4}\) から \(Re^{i\pi/4}\) までの直線経路とする。次の極限を求めよ。
\[ \lim_{R\to\infty}\int_{\ell_R}\phi(z)\,\dd z \]
整数格子の場合に導いた斜め経路と Gauss 積分を使う。\(z=re^{i\pi/4}\) と置けば \(z^2=ir^2\) となり、
\[ \phi(z)=-e^{-\pi r^2/p},\qquad \dd z=e^{i\pi/4}\,\dd r \]
へ変わる。残るのは実 Gauss 積分である。
\[ \begin{aligned} \lim_{R\to\infty}\int_{\ell_R}\phi(z)\,\dd z &=-e^{i\pi/4}\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\pi r^2/p}\,\dd r\\ &=\boxed{-\sqrt{p}\,e^{i\pi/4}}. \end{aligned} \]
留数定理による半整数ずれの Gauss 和
留数定理と前節の斜め経路積分を用いて
\[ f\left(\frac12\right) =\sum_{n=0}^{p-1}\exp\left[\frac{i\pi}{p}\left(n+\frac12\right)^2\right] \]
を求めよ。
整数格子の Gauss 和と同じ平行四辺形の方法を使う。違いは、分母 \(e^{2\pi iz}+1\) の零点が整数ではなく半整数にあることである。
\(e^{2\pi iz}+1\) の零点は半整数である。幅 \(1\) の平行四辺形を選ぶと、その内部には \(z=1/2\) の極が一つ入る。分母の微分を使えば
\[ \underset{z=1/2}{\operatorname{Res}}\,g(z) =-\frac{f(1/2)}{2\pi i}. \]
向かい合う辺の差は \(g(z+1)-g(z)=\phi(z)\) であり、残りの辺の積分は極限で消える。したがって \(f(1/2)\) は前節の斜め経路で得た積分の符号を反転した値になる。
\[ \boxed{ f\left(\frac12\right)=\sqrt{p}\,e^{i\pi/4} =\sqrt{\frac{p}{2}}(1+i) }. \]
第3部 フーリエ級数と留数
周期化と双曲線核の Fourier 係数
十分速く減衰する偶関数 \(f(x)\) から、周期 \(2\pi\) の関数
\[ g(x)=\sum_{m=-\infty}^{\infty}f(x+2m\pi) \]
を作る。
周期化と Fourier 係数
\(g(x)\) も偶関数であることを示せ。また、
\[ g(x)=\frac{a_0}{2}+\sum_{n=1}^{\infty}a_n\cos(nx) \]
の係数 \(a_n\) を \(f(x)\) に関する積分で表せ。
周期関数を正弦波へ分解する。 周期 \(2\pi\) の関数 \(g\) は、条件がよければ
\[ g(x)=\frac{a_0}{2} +\sum_{n=1}^{\infty}\{a_n\cos(nx)+b_n\sin(nx)\} \]
と表せる。三角関数の直交関係
\[ \int_{-\pi}^{\pi}\cos(nx)\cos(mx)\,\dd x = \begin{cases} \pi &(n=m\ge1),\\ 0 &(n\ne m) \end{cases} \]
を使い、級数の両辺へ \(\cos(nx)\) を掛けて一周期積分すると、目的の項以外が消える。したがって
\[ a_n=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}g(x)\cos(nx)\,\dd x \qquad(n=0,1,2,\ldots) \]
となる。同様に \(b_n=\pi^{-1}\int_{-\pi}^{\pi}g(x)\sin(nx)\,\dd x\) である。\(g\) が偶関数なら \(g(x)\sin(nx)\) は奇関数なので \(b_n=0\) となり、余弦だけが残る。
周期化とは、平行移動した山を並べる操作である。 \(f(x+2m\pi)\) は \(f\) を \(2m\pi\) だけずらした関数であり、その全てを足すと周期 \(2\pi\) の関数になる。
\(g(-x)\) では \(f\) の偶性を使い、和の添字を \(m\mapsto -m\) と替えると \(g(x)\) に戻る。
フーリエ係数では、各項の積分区間を \(u=x+2m\pi\) で平行移動する。\(\cos(nu)\) の周期が \(2\pi\) なので、区間を全てつなぐと実数全体の積分になる。
ここで、無限和の並べ替えや項別積分を正当化するために、絶対収束と一様収束を確認する。
評価の基本となる三角不等式。 複素数について
\[ |z_1+z_2|\le |z_1|+|z_2|,\qquad \bigl||z_1|-|z_2|\bigr|\le |z_1-z_2| \]
が成り立つ。二つ目は、一つ目に \(z_1=z-w,z_2=w\) を代入して \(|z|\le|z-w|+|w|\)、さらに \(z,w\) を入れ替えた不等式を組み合わせれば得られる。以下の剰余項評価は、全てこの不等式を繰り返し使っている。
絶対収束級数の並べ替え。 \(\sum z_m\) が絶対収束するなら、項をどのように並べ替えても和は変わらない。元の和を \(S\)、部分和を \(S_N\)、並べ替えた部分和を \(S_M(\sigma)\) とする。\(N\) を十分大きくして
\[ \sum_{m=N+1}^{\infty}|z_m|<\frac{\varepsilon}{2} \]
とし、\(S_M(\sigma)\) が \(z_0,\ldots,z_N\) を全て含むように \(M\) を選べば
\[ |S_M(\sigma)-S_N| \le\sum_{m=N+1}^{\infty}|z_m|<\frac{\varepsilon}{2}. \]
さらに \(|S-S_N|<\varepsilon/2\) なので、三角不等式より \(|S_M(\sigma)-S|<\varepsilon\) となる。
Weierstrass の M テスト。 \(|h_m(x)|\le M_m\) かつ \(\sum M_m<\infty\) なら、\(\sum h_m(x)\) は絶対かつ一様収束する。実際、剰余項は
\[ \left|\sum_{m=N+1}^{\infty}h_m(x)\right| \le\sum_{m=N+1}^{\infty}M_m \]
で、右辺は \(x\) に依存せず \(0\) へ収束する。この例の指数減衰の仮定から、\(x\in[-\pi,\pi]\) では \(|f(x+2m\pi)|\) を収束する等比級数で一様に抑えられるため、このテストを使える。
積分と極限の交換。 \(h_N\to h\) が経路 \(C\) 上で一様なら
\[ \left|\int_C h_N(z)\,\dd z-\int_C h(z)\,\dd z\right| \le \ell(C)\max_C|h_N-h|\longrightarrow0. \]
したがって \(\int\sum_m f(x+2m\pi)\cos(nx)\,\dd x\) を \(\sum_m\int\) に分けられる。
最後に、フーリエ部分和は Dirichlet 核
\[ D_N(x)=\sum_{n=-N}^{N}e^{inx} =\frac{\sin\{(N+1/2)x\}}{\sin(x/2)} \]
との畳み込みで表される。十分滑らかな周期関数では、この表示と Riemann–Lebesgue の補題から連続点で関数値へ、不連続点で左右極限の平均へ収束する。この例ではまず係数公式を導けばよく、上の収束論がその級数表示を支えている。
答案では、偶性を添字変換で示す → 係数公式へ周期化の和を代入する → 各区間を平行移動して実軸全体につなぐ、の順に書けばよい。
\[ g(-x)=\sum_{m=-\infty}^{\infty}f(-x+2m\pi) =\sum_{m=-\infty}^{\infty}f(x+2m\pi)=g(x). \]
また、\(n=0,1,2,\ldots\) に対して
\[ \boxed{ a_n=\frac{1}{\pi}\int_{-\infty}^{\infty}f(x)\cos(nx)\,\dd x }. \]
双曲線関数の極と留数
\(\mu>\lambda>0\) とし、
\[ f(x)=\frac{\sin(\pi\lambda/\mu)} {2\lambda\left[\cosh(\pi x/\mu)+\cos(\pi\lambda/\mu)\right]} \]
を複素関数とみなす。全ての極と各極における留数を求めよ。
\(\cosh\) と \(\sinh\) は複素数に対しても
\[ \cosh w=\frac{e^w+e^{-w}}2,\qquad \sinh w=\frac{e^w-e^{-w}}2 \]
で定義する。Euler の公式を代入すれば
\[ \cosh(iy)=\cos y,\qquad \sinh(iy)=i\sin y \]
となる。また指数関数に \(2\pi i\) を足しても値が変わらないので、\(\cosh(w+2\pi i)=\cosh w\) である。この虚方向の周期性により極が縦に繰り返し並ぶ。
\(\theta=\pi\lambda/\mu\) と置く。極は
\[ \cosh\left(\frac{\pi z}{\mu}\right)=-\cos\theta \]
の解である。\(\cosh(iy)=\cos y\) を使うと、零点は
\[ \frac{\pi z}{\mu}=i\{(2m+1)\pi\pm\theta\} \]
と書ける。これらの点では分母の微分は \(0\) にならないので全て単純極である。単純極の留数公式により、分母を \(D(z)\) とすれば留数は「分子を \(D'(z_0)\) で割る」だけでよい。
具体的には
\[ D'(z)=\frac{2\pi\lambda}{\mu} \sinh\left(\frac{\pi z}{\mu}\right). \]
\(\sinh(iy)=i\sin y\) を使うと、\(+\lambda\) の極では \(D'(z_0)=-2\pi i\lambda\sin\theta/\mu\)、\(-\lambda\) の極では \(D'(z_0)=2\pi i\lambda\sin\theta/\mu\) となる。これで解答の二種類の留数が得られる。
\(m\in\mathbb Z\) に対して全て単純極であり、
\[ \begin{array}{c|c} \text{極} & \text{留数}\\ \hline z=i\{(2m+1)\mu+\lambda\} & \displaystyle \frac{i\mu}{2\pi\lambda}\\[6pt] z=i\{(2m+1)\mu-\lambda\} & \displaystyle -\frac{i\mu}{2\pi\lambda} \end{array} \]
長方形経路による Fourier 係数
留数定理を用いて周期化の節で現れた積分を実行し、\(a_n\)(\(n=0,1,2,\ldots\))を求めよ。
留数定理を、実軸と平行な長方形経路に適用する。
\(\cos(nx)\) を直接扱う代わりに \(e^{inx}\) を使うのは、最後に実部を取れば \(\cos(nx)\) が得られ、上下の辺を移したときの倍率も簡単に計算できるからである。\(n>0\) では \(|e^{inz}|=e^{-n\operatorname{Im}z}\) なので、上半平面側で減衰する。
\(f(z)e^{inz}\) を上半平面の長方形経路で積分する。上辺を \(2i\mu\) だけずらすと、\(\cosh\) の周期性と \(e^{inz}\) から係数 \(e^{-2n\mu}\) が現れる。左右の縦辺は、実部を \(\pm R\) として \(R\to\infty\) にすると \(f\) の指数減衰により消える。帯の中の二つの極の留数を足すと
\[ \int_{-\infty}^{\infty}f(x)\cos(nx)\,\dd x =\frac{\mu}{\lambda}\frac{\sinh(n\lambda)}{\sinh(n\mu)} \]
を得る。\(n=0\) はこの式の極限として扱える。
\[ \boxed{ a_0=\frac{1}{\pi},\qquad a_n=\frac{\mu}{\pi\lambda} \frac{\sinh(n\lambda)}{\sinh(n\mu)}\quad(n\ge 1) }. \]
sech 核への特殊化
十分速く減衰する偶関数の周期化と一般の Fourier 係数は、前節の理論をそのまま使える。ここでは核を \(\operatorname{sech}\) 型に特殊化し、極と係数を具体的に計算する。
元資料の式 (8) には分母に余分な \(z\) が印字されているが、それでは実関数 \(f(x)\) が偶関数にも急減少関数にもならない。ここでは前提と後続の計算から、意図された式を
\[ f(x)=\frac{\pi}{2\lambda\cosh\!\left(\dfrac{\pi x}{2\lambda}\right)} \qquad(\lambda>0) \]
と解釈する。
極と留数
\(f(x)\) を複素関数とみなし、全ての極と各極における留数を求めよ。
双曲線関数の定義と虚方向の周期性を使う。\(\cosh w\) の零点は
\[ w=i\pi\left(m+\frac12\right)\qquad(m\in\mathbb Z) \]
である。\(w=\pi z/(2\lambda)\) と対応させれば極が分かる。全て単純極なので、留数は分母を微分して求める。
\(m\in\mathbb Z\) に対して
\[ \boxed{ z_m=i(2m+1)\lambda,\qquad \underset{z=z_m}{\operatorname{Res}}\,f(z) =(-1)^{m+1}i }. \]
Fourier 係数
留数定理を用いて、周期化の節で得た積分を実行し、\(a_n\)(\(n=0,1,2,\ldots\))を求めよ。
周期化とフーリエ係数の収束論および留数定理を使う。
必要な積分は
\[ a_n=\frac{1}{\pi}\int_{-\infty}^{\infty}f(x)\cos(nx)\,\dd x. \]
長方形経路の考え方と同様に、\(f(z)e^{inz}\) を高さ \(2\lambda\) の長方形で積分する。\(\cosh(w+i\pi)=-\cosh w\) と上辺の指数因子から実軸積分を解ける。標準的な結果は
\[ \int_{-\infty}^{\infty} \frac{e^{inx}}{\cosh(\pi x/(2\lambda))}\,\dd x =\frac{2\lambda}{\cosh(n\lambda)} \]
である。
\[ \boxed{ a_n=\frac{1}{\cosh(n\lambda)} \qquad(n=0,1,2,\ldots) }. \]
特に \(a_0=1\) である。
Fourier 級数と Fourier 変換の演習
Fourier 級数は
\[ f(x)\sim\frac{a_0}{2}+\sum_{n=1}^{\infty}\{a_n\cos(nx)+b_n\sin(nx)\} \]
とし、Fourier 変換は本編と同じく
\[ F(k)=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}f(x)e^{-ikx}\,\dd x \]
で定義する。
理論D1:係数・対称性・級数の和
周期 \(2\pi\) の関数では
\[ a_n=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\cos(nx)\,\dd x, \qquad b_n=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\sin(nx)\,\dd x. \]
偶関数なら \(b_n=0\)、奇関数なら \(a_n=0\) である。級数へ特別な \(x\) を代入すると数列の和が得られ、二乗和には Parseval の等式
\[ \frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}|f(x)|^2\,\dd x =\frac{a_0^2}{2}+\sum_{n=1}^{\infty}(a_n^2+b_n^2) \]
を使う。区分的に滑らかな関数の級数は連続点で関数値へ、不連続点で左右極限の平均へ収束する。係数が絶対可和なら Weierstrass の \(M\) テストにより一様収束する。
問題D1 Fourier 級数
\(-\pi<x\le\pi\) 上の関数を周期 \(2\pi\) で延長し、Fourier 級数を求めよ。
- \(e^x\)
- \(|\sin x|\)
- \(1-|x|/a\)(\(|x|<a\))、\(0\)(\(a\le|x|\le\pi\))、ただし \(0<a\le\pi\)
- \(\pi-|x|\)
- \(x\cos x\)
- \(\pi/2-|x|\)
- \(\sinh x\)
- \(x^2/2\)
さらに適切な \(x\) を代入し、\(\sum_{n\ge1}(2n-1)^{-2}(2n+1)^{-2}\)、\(\sum_{n\ge1}(2n-1)^{-2}\)、\(\sum_{n\ge1}(-1)^n/n^2\) を求めよ。
1. 指数関数。
\[ e^x\sim\frac{\sinh\pi}{\pi} +\frac{2\sinh\pi}{\pi}\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(-1)^n\cos(nx)+(-1)^{n+1}n\sin(nx)}{1+n^2}. \]
2. 絶対値付き正弦。
\[ |\sin x|=\frac2\pi-\frac4\pi\sum_{n=1}^{\infty}\frac{\cos(2nx)}{4n^2-1}. \]
Parseval の等式を適用すると
\[ \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{(2n-1)^2(2n+1)^2} =\frac{\pi^2-8}{16}. \]
3. 三角形関数。
\[ f(x)\sim\frac{a}{2\pi} +\sum_{n=1}^{\infty}\frac{2\{1-\cos(na)\}}{\pi an^2}\cos(nx). \]
\(a=\pi\) として \(x=0\) を代入すると
\[ \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{(2n-1)^2}=\frac{\pi^2}{8}. \]
4.
\[ \pi-|x|=\frac\pi2+\frac4\pi\sum_{m=0}^{\infty}\frac{\cos\{(2m+1)x\}}{(2m+1)^2}. \]
5. 奇関数なので正弦項だけが残り、
\[ x\cos x\sim-\frac12\sin x +\sum_{\substack{n=2}}^{\infty}\frac{2n(-1)^n}{n^2-1}\sin(nx). \]
6.
\[ \frac\pi2-|x|=\frac4\pi\sum_{m=0}^{\infty}\frac{\cos\{(2m+1)x\}}{(2m+1)^2}. \]
7.
\[ \sinh x\sim\frac{2\sinh\pi}{\pi} \sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^{n+1}n}{1+n^2}\sin(nx). \]
8.
\[ \frac{x^2}{2}=\frac{\pi^2}{6} +2\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^n}{n^2}\cos(nx). \]
\(x=0\) とすれば
\[ \sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^n}{n^2}=-\frac{\pi^2}{12}. \]
理論D2:変換公式と極限
偶関数の変換は余弦積分、奇関数の変換は純虚な正弦積分になる。平行移動・変調・微分・畳み込みは
\[ f(x-x_0)\longleftrightarrow e^{-ikx_0}F(k), \qquad e^{iax}f(x)\longleftrightarrow F(k-a), \]
\[ xf(x)\longleftrightarrow i\dv{F}{k}, \qquad (f*g)(x)\longleftrightarrow2\pi F(k)G(k) \]
となる(本ノートの規格化)。幅を \(0\) に縮めながら面積を \(1\) に保つ矩形関数はデルタ列となり、連続関数 \(g\) に対する積分は \(g(0)\) へ収束する。
問題D2 Fourier 変換
次の Fourier 変換を求めよ。
- 高さ \(1/\varepsilon\)、台 \([-\varepsilon/2,\varepsilon/2]\) の矩形関数
- \([-a,a]\) の指示関数
- \(e^{-a|x|}\)(\(a>0\))
- \(e^{-|x|}\sin x\)
- \(|x|\le1\) で \(\sin(\pi x)\)、それ以外で \(0\) の関数
- \(e^{-ax^2}\)(\(a>0\))
さらに第1問の \(\varepsilon\to0\)、第2問から Dirichlet 積分、第3問から
\[ \int_0^\infty\frac{\dd x}{(x^2+a^2)(x^2+b^2)} =\frac{\pi}{2ab(a+b)} \]
を示せ。
順に
\[ \begin{aligned} F_1(k)&=\frac{\sin(k\varepsilon/2)}{\pi\varepsilon k},\\ F_2(k)&=\frac{\sin(ak)}{\pi k},\\ F_3(k)&=\frac{a}{\pi(a^2+k^2)},\\ F_4(k)&=\frac{1}{2\pi i} \left\{\frac{1}{1+(k-1)^2}-\frac{1}{1+(k+1)^2}\right\},\\ F_5(k)&=-i\frac{\sin k}{\pi^2-k^2},\\ F_6(k)&=\frac{1}{2\sqrt{\pi a}}e^{-k^2/(4a)}. \end{aligned} \]
連続な \(g\) に対して矩形関数は単位質量を持つため
\[ \lim_{\varepsilon\to0}\int_{-\infty}^{\infty}f_\varepsilon(x)g(x)\,\dd x=g(0). \]
第二式を逆変換して \(x=0\) と置けば \(\int_{-\infty}^{\infty}\sin(ak)/k\,\dd k=\pi\)(\(a>0\))。第三式と Parseval の等式を \(e^{-a|x|}\)、\(e^{-b|x|}\) に適用すると、最後の有理積分公式が得られる。
第4部 ラプラス変換
積分微分方程式の Laplace 変換
\(\gamma,\omega,g>0\) とし、\(t\ge 0\) で
\[ \dv{f(t)}{t}+2\gamma f(t)+\omega^2\int_0^t f(\tau)\,\dd \tau=g \]
を考える。\(F(s)=\int_0^\infty f(t)e^{-st}\,\dd t\) とする。
変換による代数方程式化
\(\gamma,\omega,g,f(0)\) を用いて \(F(s)\) を表せ。
ラプラス変換は微分方程式を代数方程式へ変える。 時間関数 \(f(t)\) に対して
\[ F(s)=\mathcal L[f](s) =\int_0^\infty f(t)e^{-st}\,\dd t \]
と定める。\(\operatorname{Re}s\) が十分大きければ \(e^{-st}\) が大きな \(t\) を抑えるため積分が収束する。微分や時間積分が、\(s\) の掛け算や割り算へ変わることが最大の利点である。この例では、積分微分方程式を \(F(s)\) についての一次方程式へ変える。
ラプラス変換の基本公式
\[ \mathcal L[f']=sF(s)-f(0),\qquad \mathcal L\left[\int_0^t f(\tau)\,\dd \tau\right]=\frac{F(s)}{s},\qquad \mathcal L[g]=\frac{g}{s} \]
を各項に適用し、最後に分母を払う。
特に微分の公式は、部分積分から直接導ける。\(e^{-st}f(t)\to0\)(\(t\to\infty\))を仮定すると
\[ \begin{aligned} \mathcal L[f'](s) &=\int_0^{\infty}f'(t)e^{-st}\,\dd t\\ &=\left[f(t)e^{-st}\right]_0^{\infty} +s\int_0^{\infty}f(t)e^{-st}\,\dd t\\ &=sF(s)-f(0). \end{aligned} \]
また、\(I(t)=\int_0^t f(\tau)\,\dd \tau\) と置けば \(I'(t)=f(t)\)、\(I(0)=0\) なので、同じ公式から \(s\mathcal L[I]=F\)、すなわち \(\mathcal L[I]=F/s\) を得る。
答案では、各項を変換する → 初期値を残す → \(F(s)\) の項を集める → 分母を払う、の順に整理する。
\[ \left(s+2\gamma+\frac{\omega^2}{s}\right)F(s) =f(0)+\frac{g}{s} \]
より
\[ \boxed{ F(s)=\frac{sf(0)+g}{s^2+2\gamma s+\omega^2} }. \]
逆 Laplace 変換
\(f(0)=0\) とする。逆ラプラス変換により、(i) \(\gamma>\omega\)、(ii) \(\gamma=\omega\)、(iii) \(\gamma<\omega\) の各場合について \(f(t)\) を求めよ。
分母を平方完成すると
\[ s^2+2\gamma s+\omega^2=(s+\gamma)^2+(\omega^2-\gamma^2) \]
となる。\(f(0)=0\) のとき
\[ F(s)=\frac{g}{(s+\gamma)^2+(\omega^2-\gamma^2)} \]
である。逆変換には次の三つの基本対を使う。
\[ \begin{aligned} \mathcal L[e^{-\gamma t}\sin(\Omega t)] &=\frac{\Omega}{(s+\gamma)^2+\Omega^2},\\ \mathcal L[te^{-\gamma t}] &=\frac{1}{(s+\gamma)^2},\\ \mathcal L[e^{-\gamma t}\sinh(\beta t)] &=\frac{\beta}{(s+\gamma)^2-\beta^2}. \end{aligned} \]
これらは \(\sin,\sinh\) を指数関数で表して直接積分すれば確かめられる。\(\omega^2-\gamma^2\) が正・零・負のどれかにより、分母が上から順に \(\sin\)、\(t\)、\(\sinh\) の形へ分かれる。また \(s\mapsto s+\gamma\) のずれは、時間側で \(e^{-\gamma t}\) を掛けることに対応する。
したがって、平方完成する → 符号で場合分けする → 基本対の分子を合わせるのが答案の設計図である。
\[ f(t)= \begin{cases} \displaystyle \frac{g}{\sqrt{\gamma^2-\omega^2}}e^{-\gamma t} \sinh\!\left(\sqrt{\gamma^2-\omega^2}\,t\right), & \gamma>\omega,\\[10pt] g t e^{-\gamma t}, & \gamma=\omega,\\[8pt] \displaystyle \frac{g}{\sqrt{\omega^2-\gamma^2}}e^{-\gamma t} \sin\!\left(\sqrt{\omega^2-\gamma^2}\,t\right), & \gamma<\omega. \end{cases} \]
二階減衰方程式の Laplace 変換
\(\gamma,\omega,g>0\) とし、\(t\ge 0\) で
\[ \dv[2]{f(t)}{t} +2\gamma\dv{f(t)}{t} +\omega^2f(t) =ge^{-\gamma t}\sin(\omega t) \]
を考える。また、\(F(s)=\int_0^\infty f(t)e^{-st}\,\dd t\) とする。
初期値を含む変換
\(\gamma,\omega,g,f(0),f'(0)\) を用いて、微分方程式を満たす \(F(s)\) を表せ。
一階微分のラプラス変換の証明を二階微分にも繰り返して使う。
初期値を \(f(0)=f_0\)、\(f'(0)=f_1\) と置く。二階微分と右辺の変換は
\[ \mathcal L[f'']=s^2F-sf_0-f_1,\qquad \mathcal L[e^{-\gamma t}\sin(\omega t)] =\frac{\omega}{(s+\gamma)^2+\omega^2} \]
である。全ての \(F(s)\) の項を左辺へ集めればよい。
右辺の公式は
\[ \mathcal L[e^{-\gamma t}h(t)](s) =\mathcal L[h](s+\gamma) \]
という移動則を \(h(t)=\sin(\omega t)\) に使ったものである。
\[ \boxed{ F(s)= \frac{(s+2\gamma)f(0)+f'(0)}{s^2+2\gamma s+\omega^2} +\frac{g\omega} {\{s^2+2\gamma s+\omega^2\}\{(s+\gamma)^2+\omega^2\}} }. \]
パラメータによる解の分類
\(f(0)=f'(0)=0\) とする。逆ラプラス変換により、(i) \(\gamma>\omega\)、(ii) \(\gamma=\omega\)、(iii) \(\gamma<\omega\) の各場合について \(f(t)\) を求めよ。
\(f(t)=e^{-\gamma t}y(t)\) と置くと減衰の一階微分項が消え、
\[ y''+(\omega^2-\gamma^2)y=g\sin(\omega t),\qquad y(0)=y'(0)=0 \]
となる。これは、ラプラス変換の \(s\mapsto s+\gamma\) に対応する置換を時間側で先に行ったものでもある。前節の三つの基本対と同じく、\(\omega^2-\gamma^2\) の符号に応じて同次解が \(\sin\)、一次関数、\(\sinh\) に分かれる。
まず特殊解を \(y_p=A\sin(\omega t)\) と仮定する。代入すると
\[ \{-\omega^2+(\omega^2-\gamma^2)\}A\sin(\omega t) =g\sin(\omega t) \]
なので \(A=-g/\gamma^2\) である。あとは \(y=y_h+y_p\) とし、\(y(0)=y'(0)=0\) を使って同次解の係数を決める。
- \(\gamma<\omega\) では \(\alpha=\sqrt{\omega^2-\gamma^2}\) として \(y_h=C\sin(\alpha t)\)。
- \(\gamma=\omega\) では \(y_h=Ct\)。
- \(\gamma>\omega\) では \(\beta=\sqrt{\gamma^2-\omega^2}\) として \(y_h=C\sinh(\beta t)\)。
いずれも \(y'(0)=0\) から \(C\) が決まり、最後に \(f=e^{-\gamma t}y\) を戻せばよい。
\[ f(t)=\frac{g}{\gamma^2}e^{-\gamma t} \begin{cases} \displaystyle \frac{\omega}{\sqrt{\gamma^2-\omega^2}} \sinh\!\left(\sqrt{\gamma^2-\omega^2}\,t\right)-\sin(\omega t), & \gamma>\omega,\\[12pt] \omega t-\sin(\omega t), & \gamma=\omega,\\[8pt] \displaystyle \frac{\omega}{\sqrt{\omega^2-\gamma^2}} \sin\!\left(\sqrt{\omega^2-\gamma^2}\,t\right)-\sin(\omega t), & \gamma<\omega. \end{cases} \]
Laplace 変換と微分方程式の演習
理論E1:基本対・移動・畳み込み
定義と基本公式は
\[ \mathcal L[f](s)=\int_0^\infty f(t)e^{-st}\,\dd t, \qquad \mathcal L[t^n]=\frac{n!}{s^{n+1}}, \]
\[ \mathcal L[e^{at}f(t)](s)=F(s-a),\qquad \mathcal L[tf(t)](s)=-\dv{F}{s}, \]
\[ \mathcal L[f*g](s)=F(s)G(s),\qquad (f*g)(t)=\int_0^tf(\tau)g(t-\tau)\,\dd \tau \]
である。冪関数は変数変換 \(u=st\) により Gamma 関数へ、二つの冪関数の畳み込みは \(\tau=tu\) により Beta 関数へつながる。
問題E1 基本変換と畳み込み
次の Laplace 変換を求めよ。
- \(f(t)=e^t\)、\(g(t)=t\)。さらに畳み込み \(f*g\) を計算し、積の公式を確認せよ。
- \(t\cos t\)
- \(t^{a-1}\)(\(a>0\))。さらに Beta 関数と Gamma 関数の関係を示せ。
- \(t^4\)
基本変換と \(\mathcal L[tf(t)]=-\dv{}{s}\mathcal L[f](s)\) から
\[ \mathcal L[e^t]=\frac1{s-1},\qquad \mathcal L[t]=\frac1{s^2}, \]
\[ \mathcal L[t\cos t]=\frac{s^2-1}{(s^2+1)^2},\qquad \mathcal L[t^{a-1}]=\frac{\Gamma(a)}{s^a},\qquad \mathcal L[t^4]=\frac{4!}{s^5}. \]
畳み込みは
\[ (f*g)(t)=\int_0^t e^\tau(t-\tau)\,\dd \tau=e^t-t-1 \]
であり、実際
\[ \mathcal L[f*g]=\frac{1}{s-1}\frac1{s^2}. \]
また
\[ \begin{aligned} (t^{a-1}*t^{b-1})(t) &=\int_0^t\tau^{a-1}(t-\tau)^{b-1}\,\dd \tau\\ &=t^{a+b-1}B(a,b). \end{aligned} \]
両辺を Laplace 変換すると
\[ \frac{\Gamma(a)\Gamma(b)}{s^{a+b}} =B(a,b)\frac{\Gamma(a+b)}{s^{a+b}}, \]
したがって
\[ \boxed{B(a,b)=\frac{\Gamma(a)\Gamma(b)}{\Gamma(a+b)}}. \]
理論E2:初期値問題を代数方程式へ変える
微分公式
\[ \mathcal L\left[\dv{x}{t}\right]=sX(s)-x(0) \]
を使い、初期値を残したまま \(X(s)\) の一次方程式へ変える。解く順序は、各項を変換する → \(X(s)\) を解く → 部分分数分解する → 基本対で逆変換する、である。
問題E2 初期値問題
\[ \dv{x(t)}{t}+x(t)=\cos t,\qquad x(0)=0 \]
を Laplace 変換で解け。
変換後は
\[ (s+1)X(s)=\frac{s}{s^2+1},\qquad X(s)=\frac{s}{(s+1)(s^2+1)}. \]
部分分数分解して逆変換すると
\[ \boxed{x(t)=\frac12\{\cos t+\sin t-e^{-t}\}}. \]
理論E3:境界条件に合う固有関数
区間 \(0<x<L\) で両端が \(0\) なら、空間固有関数は \(\sin(n\pi x/L)\) である。熱方程式では各モードの時間係数が指数減衰し、初期条件を正弦級数へ展開すればモードごとに解ける。時間について Laplace 変換する場合は、初期値を含む空間方向の常微分方程式へ変わる。
問題E3 熱方程式
\[ \pdv{u}{t}=c^2\pdv[2]{u}{x},\qquad u(x,0)=\sin\frac{\pi x}{L},\qquad u(0,t)=u(L,t)=0 \]
を、Fourier 級数と Laplace 変換の二通りで解け。
境界条件を満たす固有関数は \(\sin(n\pi x/L)\) である。初期条件には \(n=1\) の成分しかないため、Fourier 法では時間係数 \(T\) が
\[ \dv{T}{t}=-c^2\left(\frac\pi L\right)^2T,\qquad T(0)=1 \]
を満たす。よって
\[ \boxed{u(x,t)=e^{-c^2\pi^2t/L^2}\sin\frac{\pi x}{L}}. \]
\(t\) について Laplace 変換すると
\[ c^2\dv[2]{U}{x}-sU=-\sin\frac{\pi x}{L},\qquad U(0,s)=U(L,s)=0. \]
\(U=A(s)\sin(\pi x/L)\) と置けば \(A(s)=\{s+c^2\pi^2/L^2\}^{-1}\) となり、同じ解を得る。
理論E4:波動方程式と移動波
全実線で空間 Fourier 変換を取ると、各波数は単振動方程式になる。半直線で時間 Laplace 変換を取ると、減衰条件によって \(e^{-sx/c}\) 側だけが残る。因子 \(e^{-as}\) の逆変換は時間遅延 \(H(t-a)f(t-a)\) であり、境界波形が速度 \(c\) で伝わることを表す。
問題E4 波動方程式
- 全実線上の \(u_{tt}=c^2u_{xx}\) を、\(u(x,0)=f(x)\)、\(u_t(x,0)=g(x)\) と減衰条件のもとで Fourier 変換により解け。
- 半直線 \(x>0\) 上で初期値 \(u(x,0)=u_t(x,0)=0\)、境界値 \(u(0,t)=f(t)\)、\(x\to\infty\) で減衰する解を Laplace 変換で求めよ。
空間 Fourier 変換を取ると、各波数 \(k\) について
\[ \dv[2]{\widehat u}{t}+c^2k^2\widehat u=0 \]
となる。逆変換すると d’Alembert の公式
\[ \boxed{ u(x,t)=\frac{f(x-ct)+f(x+ct)}2 +\frac1{2c}\int_{x-ct}^{x+ct}g(\xi)\,\dd \xi } \]
を得る。
半直線問題を \(t\) について Laplace 変換すると
\[ \dv[2]{U}{x}-\frac{s^2}{c^2}U=0,\qquad U(0,s)=F(s). \]
\(x\to\infty\) で増大する解を捨てれば \(U(x,s)=F(s)e^{-sx/c}\)。時間移動則により
\[ \boxed{u(x,t)=H\left(t-\frac xc\right)f\left(t-\frac xc\right)} \]
となる。境界から入った波形が速度 \(c\) で右へ伝わる解である。
発展事項
本編の問題を解くためには必須ではないが、同じ道具から自然に進める定理をまとめる。
複素積分による零点の計数
Jordan の補題
上半円弧 \(C_R^+\) で \(e^{i\eta z}\)(\(\eta>0\))を含む積分を考えると
\[ |e^{i\eta z}|=e^{-\eta R\sin\theta} \]
が円弧内部を抑える。\(\sin\theta\ge2\theta/\pi\) を用いて評価すれば、適切に減衰する \(f\) に対して \(\int_{C_R^+}f(z)e^{i\eta z}\,\dd z\to0\) となる。これは Fourier 型実積分で上半円を閉じる根拠になる。
偏角の原理と Rouché の定理
閉曲線 \(C\) 上で \(f\) が零点も極も持たなければ
\[ \frac{1}{2\pi i}\oint_C\frac{f'(z)}{f(z)}\,\dd z=N-P \]
であり、\(N\) と \(P\) は内部の零点と極の個数を重複度込みで数えたものである。境界上で \(|g-f|<|f|\) なら、\(f\) と \(g\) は内部に同数の零点を持つ。これが Rouché の定理である。
特殊関数への接続
Gamma 関数
\[ \Gamma(z)=\int_0^\infty t^{z-1}e^{-t}\,\dd t \]
は積分区間を分け、一様収束と Morera の定理を使うことで正則性を示せる。Beta–Gamma 関係は 畳み込みの演習で導いた。さらに Beta 積分から Gamma 関数の相反公式・倍角公式へ進み、絶対収束する Dirichlet 級数の積を素数ごとに整理するとゼータ関数の Euler 積が得られる。