材料電気化学

University
2024
材料工学
電気化学
Author

Serika Yuzuki

Published

April 8, 2024

\[ \require{mhchem} \require{physics} \]

この記事は、問題を先に自力で考え、必要に応じて理論と解答を開いて学ぶ構成になっている。数値計算では、特に断らない限り次の定数を用いる。

\[ F=9.6485\times 10^4\ \mathrm{C\,mol^{-1}},\qquad k_\mathrm{B}=1.380649\times 10^{-23}\ \mathrm{J\,K^{-1}} \]

\[ h=6.62607015\times 10^{-34}\ \mathrm{J\,s},\qquad c=2.99792458\times 10^8\ \mathrm{m\,s^{-1}} \]

電気量と物質量

問題A1 ファラデーの法則

次の問いに答えよ。電流効率はすべて \(100\%\) とする。

  1. 電流密度 \(50\ \mathrm{mA\,cm^{-2}}\) で銅を \(10\ \mathrm{min}\) 電析した。反応を

    \[ \ce{Cu^{2+} + 2e^- -> Cu} \]

    とし、銅のモル質量を \(63.55\ \mathrm{g\,mol^{-1}}\)、密度を \(8.94\ \mathrm{g\,cm^{-3}}\) とする。めっき膜厚を求めよ。

  2. 鉄、亜鉛、アルミニウムを電流密度 \(1\ \mathrm{A\,m^{-2}}\) でアノード溶解させる。鉄と亜鉛は2価、アルミニウムは3価のイオンになるとして、それぞれの溶解速度を \(\mathrm{g\,m^{-2}\,h^{-1}}\) で求めよ。モル質量は順に \(55.85, 65.38, 26.98\ \mathrm{g\,mol^{-1}}\) とする。

  3. アルカリ水電解によって \(10\ \mathrm{g}\) の水を \(1\ \mathrm{h}\) で分解するために必要な一定電流を求めよ。水のモル質量は \(18.0\ \mathrm{g\,mol^{-1}}\) とする。

この問題の正体は、回路を流れた電子の物質量と、電極反応で生成・消費される物質の量を対応させることである。

電流 \(I\) は単位時間あたりの電気量なので、一定電流なら

\[ Q=It \]

である。電子 \(1\ \mathrm{mol}\) がもつ電気量の大きさがファラデー定数 \(F\) であるから、流れた電子の物質量は

\[ n_{e^-}=\frac{Q}{F} \]

となる。物質 \(1\ \mathrm{mol}\) の析出または溶解に電子が \(z\ \mathrm{mol}\) 必要なら、物質量 \(n\)

\[ n=\frac{Q}{zF} \]

である。したがって、モル質量を \(M\) とすれば質量は

\[ m=\frac{MQ}{zF} \]

となる。電流密度 \(j=I/A\) が与えられた場合は、面積あたりの質量として

\[ \frac{m}{A}=\frac{Mjt}{zF} \]

を用いる。

一様な膜の密度を \(\rho\)、厚さを \(d\) とすれば \(m=\rho Ad\) なので、

\[ d=\frac{Mjt}{zF\rho} \]

である。

水電解の全反応は

\[ \ce{2H2O -> 2H2 + O2} \]

であり、水 \(2\ \mathrm{mol}\) の分解に電子 \(4\ \mathrm{mol}\) が対応する。したがって、水 \(1\ \mathrm{mol}\) あたり必要な電気量は \(2F\) である。

よくある誤りは、電流密度をそのまま電流として扱うこと、分と秒を混在させること、イオンの価数 \(z\) を落とすことである。面積が与えられていない問題では、最初から単位面積あたりで計算するとよい。

  1. \(j=0.050\ \mathrm{A\,cm^{-2}}\)\(t=600\ \mathrm{s}\) なので、

    \[ d=\frac{(63.55)(0.050)(600)} {2(9.6485\times10^4)(8.94)} =1.11\times10^{-3}\ \mathrm{cm} \]

    よって、

    \[ \boxed{d\simeq 11.1\ \mathrm{\mu m}} \]

  2. 面積 \(1\ \mathrm{m^2}\)、時間 \(1\ \mathrm{h}=3600\ \mathrm{s}\) あたり

    \[ \frac{m}{A} =\frac{Mj t}{zF} \]

    である。したがって、

    \[ \begin{aligned} \ce{Fe}:&\quad \frac{55.85\times1\times3600}{2F} =1.04\ \mathrm{g\,m^{-2}\,h^{-1}},\\ \ce{Zn}:&\quad \frac{65.38\times1\times3600}{2F} =1.22\ \mathrm{g\,m^{-2}\,h^{-1}},\\ \ce{Al}:&\quad \frac{26.98\times1\times3600}{3F} =0.336\ \mathrm{g\,m^{-2}\,h^{-1}}. \end{aligned} \]

  3. 水の物質量は \(10/18.0\ \mathrm{mol}\) である。必要な電気量は

    \[ Q=2F\frac{10}{18.0} \]

    なので、

    \[ I=\frac{Q}{3600} =\frac{2(9.6485\times10^4)(10/18.0)}{3600} =29.8\ \mathrm{A}. \]

    よって、必要な一定電流は

    \[ \boxed{I\simeq 29.8\ \mathrm{A}} \]

エネルギーの換算

問題B1 電子ボルト、温度、光の波長

  1. エネルギー \(1\ \mathrm{eV}=1.602\times10^{-19}\ \mathrm{J}\) を、熱エネルギー \(k_\mathrm{B}T\) と等しいとみなしたときの温度 \(T\) に換算せよ。
  2. アナターゼ型 \(\ce{TiO2}\) と Si のバンドギャップをそれぞれ \(3.2\ \mathrm{eV}\)\(1.1\ \mathrm{eV}\) とする。各バンドギャップに対応する光の波長を \(\mathrm{nm}\) で求めよ。

電子ボルトは、電荷の大きさが電気素量 \(e\) の粒子が \(1\ \mathrm{V}\) の電位差を通過するときに得るエネルギーである。

\[ 1\ \mathrm{eV}=e\times1\ \mathrm{V} =1.602176634\times10^{-19}\ \mathrm{J} \]

温度 \(T\) が表す代表的な熱エネルギーは \(k_\mathrm{B}T\) である。したがって、エネルギー \(E\) を温度尺度へ直すには

\[ T=\frac{E}{k_\mathrm{B}} \]

を使う。ただし、これは物体がその温度になったという意味ではなく、二つのエネルギースケールを比較しているだけである。

光子のエネルギーと波長の関係は

\[ E=h\nu=\frac{hc}{\lambda} \]

なので、

\[ \lambda=\frac{hc}{E} \]

である。\(E\)\(\mathrm{eV}\)\(\lambda\)\(\mathrm{nm}\) で表すと

\[ hc\simeq 1240\ \mathrm{eV\,nm} \]

が便利である。バンドギャップに対応する波長は、価電子帯から伝導帯へ電子を励起できる光の長波長側の目安になる。バンド構造と光吸収の背景は、材料量子力学の光子エネルギーと遷移にもつながる。

  1. \[ T=\frac{1.602\times10^{-19}} {1.380649\times10^{-23}} =1.16\times10^4\ \mathrm{K} \]

    よって、

    \[ \boxed{1\ \mathrm{eV}\simeq1.16\times10^4\ \mathrm{K}} \]

  2. \(\lambda=1240/E\ \mathrm{nm}\) より、

    \[ \begin{aligned} \ce{TiO2}:&\quad \lambda=\frac{1240}{3.2} \simeq 388\ \mathrm{nm},\\ \ce{Si}:&\quad \lambda=\frac{1240}{1.1} \simeq 1.13\times10^3\ \mathrm{nm}. \end{aligned} \]

    したがって、

    \[ \boxed{\lambda_{\ce{TiO2}}\simeq388\ \mathrm{nm},\qquad \lambda_{\ce{Si}}\simeq1.13\times10^3\ \mathrm{nm}} \]

電解質中のイオン

問題C1 結晶半径とストークス半径

\(\ce{Li+}\)\(\ce{Cs+}\) より結晶半径 \(r_\mathrm{c}\) が小さいが、水溶液中で運動するときのストークス半径 \(r_\mathrm{s}\) は大きい。この理由を説明せよ。

結晶半径は、結晶中の原子間距離から見積もった裸のイオンの大きさである。一方、ストークス半径は、溶液中を動く粒子が流体から受ける抵抗を、半径 \(r_\mathrm{s}\) の球が受けるストークス抵抗

\[ f=6\pi\eta r_\mathrm{s}v \]

に対応させた有効半径である。ここで、\(\eta\) は粘度、\(v\) はイオンの移動速度である。

同じ1価の陽イオンを比べると、半径が小さいほど表面近くの電場が強く、水分子の負に偏った酸素側を強く引きつける。したがって、小さな \(\ce{Li+}\) の周囲には強く束縛された水和殻ができ、移動時にはその水和殻も一緒に引きずる。裸のイオンは小さくても、流体力学的には大きな粒子として振る舞う。

ストークス半径は固定された幾何学的半径ではなく、溶媒、温度、濃度、水和構造を含んだ輸送現象上の有効量である点に注意する。

\(\ce{Li+}\) は結晶半径が小さいため電荷密度が高く、水分子を強く配向・束縛して大きな水和殻を形成する。溶液中ではこの水和殻を伴って移動するため、裸のイオン半径では \(\ce{Li+}<\ce{Cs+}\) であっても、流体抵抗から定まるストークス半径は

\[ \boxed{r_\mathrm{s}(\ce{Li+})>r_\mathrm{s}(\ce{Cs+})} \]

となる。

問題C2 イオン移動度と酢酸の電離

  1. 無限希釈におけるイオンモル伝導率が次のように与えられている。

    イオン \(\lambda_i^\infty\ [10^{-4}\ \mathrm{S\,m^2\,mol^{-1}}]\)
    \(\ce{K+}\) 73.5
    \(\ce{Ca^{2+}}\) 119
    \(\ce{Cl-}\) 76.35
    \(\ce{SO4^{2-}}\) 160

    各イオンの移動度を求めよ。

  2. \(\ce{HCl}\)\(\ce{NaCl}\)\(\ce{CH3COONa}\) の無限希釈モル伝導率は、それぞれ \(426.3,126.4,91.0\ \mathrm{S\,cm^2\,mol^{-1}}\) である。酢酸の無限希釈モル伝導率を求めよ。

  3. \(0.020\ \mathrm{mol\,L^{-1}}\) の酢酸水溶液の導電率が \(2.31\times10^{-4}\ \mathrm{S\,cm^{-1}}\) であった。電離度 \(\alpha\) と酸解離定数 \(K_\mathrm{a}\) を求めよ。

  4. \(\Delta_\mathrm{f}G^\circ(\ce{CH3COOH})=-396.46\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}}\)\(\Delta_\mathrm{f}G^\circ(\ce{H+})=0\) として、\(\ce{CH3COO-}\) の標準生成ギブズエネルギーを求めよ。

弱い電場 \(E\) のもとで、イオン \(i\) の平均移動速度 \(v_i\)

\[ v_i=u_iE \]

と書ける。この比例係数 \(u_i\) がイオン移動度である。イオンの電荷数の絶対値を \(|z_i|\) とすると、無限希釈イオンモル伝導率との関係は

\[ \lambda_i^\infty=|z_i|Fu_i \]

なので、

\[ u_i=\frac{\lambda_i^\infty}{|z_i|F} \]

である。表の \(10^{-4}\) を落とさず、SI単位へ直して代入する。

無限希釈ではイオン間相互作用が無視でき、電解質のモル伝導率は構成イオンの寄与の和になる。これがコールラウシュのイオン独立移動則である。酢酸については、測定可能な強電解質の組合せから

\[ \Lambda^\infty_{\ce{CH3COOH}} =\Lambda^\infty_{\ce{HCl}} +\Lambda^\infty_{\ce{CH3COONa}} -\Lambda^\infty_{\ce{NaCl}} \]

を作れる。

濃度 \(c\)\(\mathrm{mol\,L^{-1}}\)、導電率 \(\kappa\)\(\mathrm{S\,cm^{-1}}\) とすると、モル伝導率は

\[ \Lambda=\frac{1000\kappa}{c} \quad [\mathrm{S\,cm^2\,mol^{-1}}] \]

である。弱電解質では、電離した割合にほぼ比例して電気を運ぶので

\[ \alpha=\frac{\Lambda}{\Lambda^\infty} \]

となる。酢酸を \(\ce{HA <=> H+ + A-}\) と書けば、オストワルトの希釈律から

\[ K_\mathrm{a}=\frac{c\alpha^2}{1-\alpha} \]

を得る。

さらに、標準反応ギブズエネルギーと平衡定数の関係

\[ \Delta_\mathrm{r}G^\circ=-RT\ln K_\mathrm{a} \]

および

\[ \Delta_\mathrm{r}G^\circ =\Delta_\mathrm{f}G^\circ(\ce{H+}) +\Delta_\mathrm{f}G^\circ(\ce{CH3COO-}) -\Delta_\mathrm{f}G^\circ(\ce{CH3COOH}) \]

を組み合わせれば、酢酸イオンの標準生成ギブズエネルギーが求まる。

  1. \(u_i=\lambda_i^\infty/(|z_i|F)\) より、

    \[ \begin{aligned} u_{\ce{K+}}&=7.62\times10^{-8}\ \mathrm{m^2\,V^{-1}\,s^{-1}},\\ u_{\ce{Ca^{2+}}}&=6.17\times10^{-8}\ \mathrm{m^2\,V^{-1}\,s^{-1}},\\ u_{\ce{Cl-}}&=7.91\times10^{-8}\ \mathrm{m^2\,V^{-1}\,s^{-1}},\\ u_{\ce{SO4^{2-}}}&=8.29\times10^{-8}\ \mathrm{m^2\,V^{-1}\,s^{-1}}. \end{aligned} \]

  2. \[ \Lambda^\infty_{\ce{CH3COOH}} =426.3+91.0-126.4 =\boxed{390.9\ \mathrm{S\,cm^2\,mol^{-1}}}. \]

  3. \[ \Lambda=\frac{1000(2.31\times10^{-4})}{0.020} =11.55\ \mathrm{S\,cm^2\,mol^{-1}} \]

    なので、

    \[ \alpha=\frac{11.55}{390.9}=2.95\times10^{-2}. \]

    \[ K_\mathrm{a} =\frac{0.020(2.95\times10^{-2})^2}{1-2.95\times10^{-2}} =1.80\times10^{-5}\ \mathrm{mol\,L^{-1}}. \]

    よって、

    \[ \boxed{\alpha=0.0295,\qquad K_\mathrm{a}=1.80\times10^{-5}\ \mathrm{mol\,L^{-1}}} \]

  4. \[ \Delta_\mathrm{r}G^\circ =-RT\ln K_\mathrm{a} =27.1\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} \]

    であるから、

    \[ \Delta_\mathrm{f}G^\circ(\ce{CH3COO-}) =27.1-396.46 =\boxed{-369.4\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}}}. \]

問題C3 酢酸の電気伝導度滴定

酢酸水溶液を \(\ce{NaOH}\) 水溶液で電気伝導度滴定する。滴定量に対する全導電率の変化を描き、\(\ce{H+}\)\(\ce{Na+}\)\(\ce{CH3COO-}\)\(\ce{OH-}\) の寄与を示せ。

酢酸は弱酸なので、滴定前の \(\ce{H+}\) 濃度は小さい。\(\ce{NaOH}\) を加えると

\[ \ce{CH3COOH + OH- -> CH3COO- + H2O} \]

が進み、当量点までは \(\ce{Na+}\)\(\ce{CH3COO-}\) がほぼ同量ずつ増える。したがって、導電率は緩やかに増加する。

当量点を越えると、加えた \(\ce{OH-}\) が過剰として残る。\(\ce{OH-}\) のイオンモル伝導率は大きいため、当量点後の傾きは大きくなる。二つの直線部分の交点が当量点の目安である。

この模式図は平衡計算による厳密曲線ではなく、各イオンの増減と傾きの変化を示すものである。

横軸は当量点で規格化したNaOH添加量、縦軸は相対導電率。Naイオンと酢酸イオンの寄与は当量点まで増加し、当量点後は水酸化物イオンの寄与が急増する。全導電率は当量点を境に傾きが大きくなる。
Figure 1: 酢酸をNaOHで滴定したときの導電率寄与の模式図

当量点までは \(\ce{Na+}\)\(\ce{CH3COO-}\) の生成により導電率が緩やかに増加し、当量点後は過剰な \(\ce{OH-}\) の寄与により急増する。したがって、全導電率の二つの傾きの交点が当量点となる。

問題C4 イオン強度、デバイ長、平均活量係数

  1. \(0.10\ \mathrm{mol\,L^{-1}}\)\(\ce{NaCl}\)\(0.010\ \mathrm{mol\,L^{-1}}\)\(\ce{Al2(SO4)3}\) を含む水溶液について、全イオン強度と \(\ce{NaCl}\) の分担割合を求めよ。両電解質は完全電離するとする。
  2. \(25\ ^\circ\mathrm{C}\)\(\ce{CaCl2}\) 水溶液について、濃度が \(0.0010\) および \(0.010\ \mathrm{mol\,L^{-1}}\) のときのイオン強度とデバイ長を求めよ。水の比誘電率を \(78.5\) とする。
  3. デバイ―ヒュッケルの極限則を用い、\(5.0\times10^{-3}\ \mathrm{mol\,L^{-1}}\)\(\ce{KCl}\)\(1.0\times10^{-3}\ \mathrm{mol\,L^{-1}}\)\(\ce{CaCl2}\) の平均活量係数を求めよ。

イオン強度は

\[ I=\frac12\sum_i c_iz_i^2 \]

で定義される。式量濃度ではなく、電離後の各イオン濃度 \(c_i\) を用いる。電荷数が二乗で効くため、多価イオンは低濃度でも大きく寄与する。

イオン雰囲気による電場の遮蔽距離がデバイ長 \(\lambda_\mathrm{D}\) である。数密度を用いた式は

\[ \lambda_\mathrm{D} =\sqrt{ \frac{\varepsilon_0\varepsilon_\mathrm{r}k_\mathrm{B}T} {2e^2N_\mathrm{A}(1000I)} } \]

である。ここで \(I\)\(\mathrm{mol\,L^{-1}}\) であり、\(1000I\) によって \(\mathrm{mol\,m^{-3}}\) へ直している。\(25\ ^\circ\mathrm{C}\) の水では

\[ \lambda_\mathrm{D}\ [\mathrm{nm}] \simeq\frac{0.304}{\sqrt{I\ [\mathrm{mol\,L^{-1}}]}} \]

と書ける。

\(25\ ^\circ\mathrm{C}\) の水溶液に対するデバイ―ヒュッケルの極限則は

\[ \log_{10}\gamma_i=-0.509z_i^2\sqrt I \]

である。電解質 \(\ce{M}_{\nu_+}\ce{X}_{\nu_-}\) の平均活量係数は

\[ \gamma_\pm =\left(\gamma_+^{\nu_+}\gamma_-^{\nu_-}\right)^{1/(\nu_++\nu_-)} \]

で定義する。この極限則は十分に希薄な溶液にだけ適用できる。

  1. \[ I_{\ce{NaCl}}=\frac12(0.10+0.10)=0.10\ \mathrm{mol\,L^{-1}} \]

    である。\(\ce{Al2(SO4)3}\)\(0.020\ \mathrm{mol\,L^{-1}}\)\(\ce{Al^{3+}}\)\(0.030\ \mathrm{mol\,L^{-1}}\)\(\ce{SO4^{2-}}\) を生じるので、

    \[ I_{\ce{Al2(SO4)3}} =\frac12\left(0.020\times3^2+0.030\times2^2\right) =0.15\ \mathrm{mol\,L^{-1}}. \]

    よって、

    \[ \boxed{I=0.25\ \mathrm{mol\,L^{-1}},\qquad \text{$\ce{NaCl}$ の分担}=40\%} \]

  2. \(\ce{CaCl2}\) の式量濃度を \(c\) とすれば

    \[ I=\frac12(4c+2c)=3c. \]

    したがって、

    \[ \begin{array}{c|c|c} c\ [\mathrm{mol\,L^{-1}}] & I\ [\mathrm{mol\,L^{-1}}] & \lambda_\mathrm{D}\ [\mathrm{nm}]\\ \hline 0.0010 & 0.0030 & 5.55\\ 0.010 & 0.030 & 1.76 \end{array} \]

  3. \(\ce{KCl}\) では \(I=0.0050\) かつ \(|z_+|=|z_-|=1\) なので、

    \[ \boxed{\gamma_\pm(\ce{KCl})=10^{-0.509\sqrt{0.0050}}=0.920}. \]

    \(\ce{CaCl2}\) では \(I=0.0030\) であり、

    \[ \log_{10}\gamma_\pm =\frac{-0.509\sqrt I(2^2+2\times1^2)}{3} =-1.018\sqrt I. \]

    よって、

    \[ \boxed{\gamma_\pm(\ce{CaCl2})=0.880}. \]

問題C5 ボルンの溶媒和エネルギー

\(25\ ^\circ\mathrm{C}\) の水の比誘電率を \(78.54\) とする。ボルン式を

\[ \Delta G_\mathrm{solv}^\circ =-\frac{z^2}{r_i\ [\mathrm{pm}]} \times C\quad[\mathrm{kJ\,mol^{-1}}] \]

と書いたときの定数 \(C\) を求めよ。さらに、\(r_{\ce{Cl-}}=181\ \mathrm{pm}\)\(r_{\ce{I-}}=220\ \mathrm{pm}\) として、それぞれの \(\Delta G_\mathrm{solv}^\circ\) を求めよ。

半径 \(r_i\)、電荷 \(ze\) の球を真空から比誘電率 \(\varepsilon_\mathrm{r}\) の連続誘電体へ移すボルンモデルでは、

\[ \Delta G_\mathrm{solv}^\circ =-\frac{N_\mathrm{A}z^2e^2}{8\pi\varepsilon_0r_i} \left(1-\frac1{\varepsilon_\mathrm{r}}\right) \]

となる。溶媒の分極によって電荷の静電エネルギーが下がるため、符号は負である。\(r_i\) が小さく、\(|z|\) が大きいほど絶対値は大きい。

このモデルは溶媒を一様な連続体とみなすため、分子レベルの水和構造や特異的相互作用は表さない。

\[ C =\frac{N_\mathrm{A}e^2}{8\pi\varepsilon_0} \left(1-\frac1{78.54}\right) \times\frac{10^{12}\ \mathrm{pm/m}}{10^3\ \mathrm{J/kJ}} =6.86\times10^4. \]

したがって、

\[ \boxed{ \Delta G_\mathrm{solv}^\circ =-\frac{6.86\times10^4z^2}{r_i\ [\mathrm{pm}]} \ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} } \]

である。両イオンは \(z=-1\) なので、

\[ \boxed{ \Delta G_\mathrm{solv}^\circ(\ce{Cl-})=-379\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}}, \qquad \Delta G_\mathrm{solv}^\circ(\ce{I-})=-312\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} } \]

問題C6 帯電した導体球の表面電位

半径 \(1.0\ \mathrm{cm}\) の導体球に、\(1.0\times10^{-13}\ \mathrm{mol}\) の過剰電子がある。導体球は真空中にあり、無限遠の電位を \(0\ \mathrm{V}\) とする。真空の誘電率を

\[ \varepsilon_0=8.854\times10^{-12}\ \mathrm{C\,V^{-1}\,m^{-1}} \]

として、球表面の電位を求めよ。

電子 \(1\ \mathrm{mol}\) の電荷は \(-F\) なので、過剰電子の物質量を \(n_e\) とすれば導体球の全電荷は

\[ Q=-n_eF \]

である。

半径 \(R\) の孤立した導体球の外側の電場は、中心に点電荷 \(Q\) がある場合と同じである。無限遠を基準にした表面電位は

\[ V(R)=-\int_R^\infty \frac{Q}{4\pi\varepsilon_0r^2}\dd r =\frac{Q}{4\pi\varepsilon_0R} \]

となる。過剰電子による電荷は負なので、電位も負である。絶対値だけを計算して符号を落とさないことが重要である。

導体球の電荷は

\[ Q=-(1.0\times10^{-13})F =-9.6485\times10^{-9}\ \mathrm{C} \]

である。\(R=1.0\times10^{-2}\ \mathrm{m}\) より、

\[ V=\frac{Q}{4\pi\varepsilon_0R} =\frac{-9.6485\times10^{-9}} {4\pi(8.854\times10^{-12})(1.0\times10^{-2})}. \]

したがって、

\[ \boxed{V\simeq-8.67\times10^3\ \mathrm{V}} \]

電極電位と安定領域

問題D1 ネルンスト式の導出

酸化体と還元体の半反応

\[ \ce{Ox + ne- <=> Red} \]

について、電気化学ポテンシャルを用いてネルンスト式を導出せよ。

電荷数 \(z_i\) の化学種 \(i\) の電気化学ポテンシャルは

\[ \widetilde\mu_i =\mu_i^\circ+RT\ln a_i+z_iF\phi \]

である。最初の二項は化学的な居心地、最後の項は電位 \(\phi\) の場所に電荷を置く電気的仕事を表す。

半反応が平衡なら、反応の電気化学ポテンシャル変化は0である。電子を含まない化学種の反応商を

\[ Q=\frac{a_\mathrm{Red}}{a_\mathrm{Ox}} \]

とすれば、反応ギブズエネルギーは

\[ \Delta_\mathrm{r}G =\Delta_\mathrm{r}G^\circ+RT\ln Q. \]

電子 \(n\ \mathrm{mol}\) が外部回路を通るときの電気的仕事は \(-nFE\) なので、平衡条件は

\[ 0=\Delta_\mathrm{r}G+nFE. \]

標準状態について

\[ E^\circ=-\frac{\Delta_\mathrm{r}G^\circ}{nF} \]

と定義すれば、ネルンスト式が得られる。反応を還元方向に書くこと、反応商を生成物/反応物で作ること、電子を反応商に含めないことが重要である。

\[ \Delta_\mathrm{r}G =\Delta_\mathrm{r}G^\circ+RT\ln Q \]

と、可逆な電気的仕事

\[ \Delta_\mathrm{r}G=-nFE \]

を等置する。

\[ -nFE=\Delta_\mathrm{r}G^\circ+RT\ln Q \]

かつ \(E^\circ=-\Delta_\mathrm{r}G^\circ/(nF)\) なので、

\[ \boxed{ E=E^\circ-\frac{RT}{nF}\ln Q } \]

を得る。\(\ce{Ox + ne- <=> Red}\)\(Q=a_\mathrm{Red}/a_\mathrm{Ox}\) なら、

\[ \boxed{ E=E^\circ+\frac{RT}{nF} \ln\frac{a_\mathrm{Ox}}{a_\mathrm{Red}} } \]

問題D2 標準電極電位とダニエル電池

\(25\ ^\circ\mathrm{C}\) における標準生成ギブズエネルギーを次のように与える。単体の標準生成ギブズエネルギーは0とする。

化学種 \(\Delta_\mathrm{f}G^\circ\ [\mathrm{kJ\,mol^{-1}}]\)
\(\ce{Zn^{2+}}\) \(-147.06\)
\(\ce{Al^{3+}}\) \(-485.0\)
\(\ce{Fe^{2+}}\) \(-78.9\)
\(\ce{Cu^{2+}}\) \(65.49\)
\(\ce{PbCl2(s)}\) \(-314.1\)
\(\ce{Cl-}\) \(-131.23\)
\(\ce{Na+}\) \(-261.91\)
  1. 次の酸化還元対の標準還元電位を SHE 基準で求めよ。

    \[ \ce{Al^{3+}/Al},\quad \ce{Zn^{2+}/Zn},\quad \ce{Fe^{2+}/Fe},\quad \ce{Cu^{2+}/Cu},\quad \ce{PbCl2/Pb,Cl-},\quad \ce{Na+/Na} \]

  2. \(a_{\ce{Zn^{2+}}}=0.10\) のときの \(\ce{Zn^{2+}/Zn}\) 電極電位を求めよ。

  3. ダニエル電池の全反応を記し、\(a_{\ce{Zn^{2+}}}=0.050\)\(a_{\ce{Cu^{2+}}}=0.0020\)、液間電位差を0として起電力を求めよ。

標準還元電位は、半反応を必ず還元方向

\[ \ce{Ox + ne- -> Red} \]

に書き、

\[ E^\circ=-\frac{\Delta_\mathrm{r}G^\circ}{nF} \]

で求める。酸化方向に書かれた反応では、電位の符号を反転させて還元電位へそろえる。

ダニエル電池では亜鉛が酸化され、銅イオンが還元される。

\[ \begin{aligned} \text{負極:}&\quad \ce{Zn -> Zn^{2+} + 2e-},\\ \text{正極:}&\quad \ce{Cu^{2+} + 2e- -> Cu}. \end{aligned} \]

電池の起電力は

\[ E_\mathrm{cell}=E_\mathrm{cathode}-E_\mathrm{anode} \]

である。全反応の反応商

\[ Q=\frac{a_{\ce{Zn^{2+}}}}{a_{\ce{Cu^{2+}}}} \]

を使えば、

\[ E_\mathrm{cell} =E_\mathrm{cell}^\circ-\frac{RT}{2F}\ln Q \]

と一度に計算できる。

  1. 還元方向に統一すると、

    \[ \begin{array}{c|c} \text{酸化還元対} & E^\circ\ [\mathrm{V\ vs\ SHE}]\\ \hline \ce{Al^{3+}/Al} & -1.676\\ \ce{Zn^{2+}/Zn} & -0.762\\ \ce{Fe^{2+}/Fe} & -0.409\\ \ce{Cu^{2+}/Cu} & +0.339\\ \ce{PbCl2/Pb,Cl-} & -0.268\\ \ce{Na+/Na} & -2.715 \end{array} \]

    例えば \(\ce{Cu^{2+}+2e- -> Cu}\) では

    \[ \Delta_\mathrm{r}G^\circ=-65.49\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} \]

    なので、\(E^\circ=+0.339\ \mathrm{V}\) である。

  2. \[ E=E^\circ_{\ce{Zn^{2+}/Zn}} +\frac{RT}{2F}\ln a_{\ce{Zn^{2+}}} \]

    より、

    \[ \boxed{E=-0.762+\frac{RT}{2F}\ln0.10=-0.792\ \mathrm{V}}. \]

  3. 全反応は

    \[ \ce{Zn + Cu^{2+} -> Zn^{2+} + Cu}. \]

    \[ E_\mathrm{cell}^\circ =0.339-(-0.762)=1.101\ \mathrm{V} \]

    であり、

    \[ E_\mathrm{cell} =1.101-\frac{RT}{2F}\ln\frac{0.050}{0.0020} =\boxed{1.060\ \mathrm{V}}. \]

問題D3 鉄のプールベ図

下図は鉄―水系の電位―pH図の一部を模式的に描き直したものである。

  1. この図の名称を答えよ。
  2. 領域Aに対応する化学種を答えよ。
  3. 境界①の平衡電極電位 \(E\) を、\(x=\mathrm{pH}=-\log_{10}a_{\ce{H+}}\) の関数として表せ。領域Aの化学種の活量を \(10^{-4}\) とし、温度は \(25\ ^\circ\mathrm{C}\) とする。固体と水の活量は1としてよい。
横軸pH、縦軸電極電位Eの模式図。左側に領域A、右上にFe2O3、右中央にFe3O4、下部にFeがあり、領域AとFe2O3の境界に丸数字1が付いている。
Figure 2: 鉄―水系の電位―pH図(元図を参考にした模式的再作図)

プールベ図は、横軸に pH、縦軸に電極電位 \(E\) をとり、どの化学種が熱力学的に安定かを表す図である。金属、溶存イオン、酸化物などの境界は、それらが平衡になる条件から求める。

領域Aと \(\ce{Fe2O3}\) の境界①では、次の還元半反応を考える。

\[ \ce{Fe2O3(s) + 6H+(aq) + 2e- <=> 2Fe^{2+}(aq) + 3H2O(l)} \]

左辺と右辺で鉄原子、酸素原子、水素原子、電荷がそれぞれ保存されている。ここから領域Aは \(\ce{Fe^{2+}}\) と分かる。

一般に、還元反応

\[ \ce{Ox + ne- <=> Red} \]

の電極電位はネルンスト式

\[ E=E^\circ-\frac{RT}{nF}\ln Q \]

で与えられる。境界①の反応商は、固体 \(\ce{Fe2O3}\) と純水の活量を1とすれば

\[ Q=\frac{a_{\ce{Fe^{2+}}}^2}{a_{\ce{H+}}^6} \]

である。したがって、

\[ E =E^\circ_{\ce{Fe2O3}/\ce{Fe^{2+}}} -\frac{RT}{2F} \ln\left( \frac{a_{\ce{Fe^{2+}}}^2}{a_{\ce{H+}}^6} \right). \]

\(25\ ^\circ\mathrm{C}\) では \(2.303RT/F=0.05916\ \mathrm{V}\) なので、

\[ E =E^\circ_{\ce{Fe2O3}/\ce{Fe^{2+}}} -0.05916\log_{10}a_{\ce{Fe^{2+}}} -0.1775\,\mathrm{pH}. \]

\(\ce{H+}\) が反応物側にあるため、pHが増すほど平衡電位は低下する。図の右下がりの境界と式の負の傾きが一致することも確認できる。

プールベ図が示すのは平衡状態の安定性であり、反応速度や不動態皮膜の成長速度までは直接示さない。

  1. 図の名称は

    \[ \boxed{\text{プールベ図(電位―pH図)}} \]

  2. 境界①の半反応は

    \[ \ce{Fe2O3 + 6H+ + 2e- <=> 2Fe^{2+} + 3H2O} \]

    なので、領域Aは

    \[ \boxed{\ce{Fe^{2+}(aq)}} \]

  3. \(x=\mathrm{pH}\) とすると、

    \[ E =E^\circ_{\ce{Fe2O3}/\ce{Fe^{2+}}} -0.05916\log_{10}a_{\ce{Fe^{2+}}} -0.1775x. \]

    \(a_{\ce{Fe^{2+}}}=10^{-4}\) を代入して、

    \[ \boxed{ E =E^\circ_{\ce{Fe2O3}/\ce{Fe^{2+}}} +0.2366-0.1775x } \]

    である。\(E\) と標準電極電位の単位は \(\mathrm{V}\) である。

問題D4 亜鉛のプールベ図とアルカリマンガン電池

次の標準生成ギブズエネルギーを用いる。

化学種 \(\Delta_\mathrm{f}G^\circ\ [\mathrm{kJ\,mol^{-1}}]\)
\(\ce{Zn^{2+}}\) \(-147.06\)
\(\ce{Zn(OH)2(s)}\) \(-555.07\)
\(\ce{MnO2(s)}\) \(-465.14\)
\(\ce{Mn(OH)2(s)}\) \(-618.58\)
\(\ce{H2O(l)}\) \(-237.13\)
\(\ce{OH-}\) \(-157.24\)

下図は \(a_{\ce{Zn^{2+}}}=1\) とした亜鉛―水系の模式的なプールベ図である。

横軸pH、縦軸電極電位E。上左が領域A、上右が領域B、下が領域C。AとCの水平境界が1、BとCの右下がり境界が2と示されている。
Figure 3: 亜鉛―水系のプールベ図(設問用模式図)
  1. 領域 (A)、(B)、(C) に対応する \(\ce{Zn^{2+}}\)\(\ce{Zn(OH)2}\)\(\ce{Zn}\) をそれぞれ答えよ。
  2. 境界①の平衡電極電位を求めよ。
  3. 境界②の平衡電極電位を \(x=\mathrm{pH}\) の関数として表せ。
  4. \(\ce{MnO2}\)\(\ce{Zn}\) を電極、\(\ce{KOH}\) 水溶液を電解質とし、放電後に両電極で水酸化物が生成する簡略化したアルカリマンガン電池を考える。正極反応、負極反応、全反応、標準開放電圧を求めよ。

低い電極電位は還元状態を安定化するため、図の下側は金属 \(\ce{Zn}\) になる。高い電位では酸化された化学種が安定し、酸性側では溶存 \(\ce{Zn^{2+}}\)、塩基性側では \(\ce{Zn(OH)2}\) が対応する。

境界①は

\[ \ce{Zn^{2+} + 2e- <=> Zn} \]

であり、\(a_{\ce{Zn^{2+}}}=1\) なら \(E=E^\circ=-0.762\ \mathrm{V}\) である。

境界②は

\[ \ce{Zn(OH)2 + 2H+ + 2e- <=> Zn + 2H2O} \]

と書くと pH 依存性が見やすい。標準反応ギブズエネルギーは

\[ \Delta_\mathrm{r}G^\circ =2\Delta_\mathrm{f}G^\circ(\ce{H2O}) -\Delta_\mathrm{f}G^\circ(\ce{Zn(OH)2}) =80.81\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} \]

なので、

\[ E^\circ=-0.419\ \mathrm{V}. \]

ネルンスト式から \(25\ ^\circ\mathrm{C}\) では

\[ E=E^\circ-0.05916\,\mathrm{pH} \]

となる。

電池については、正極の還元反応と負極の酸化反応を、電子数が消えるように加える。全反応の

\[ \Delta_\mathrm{r}G^\circ =\sum\nu_i\Delta_\mathrm{f}G_i^\circ \]

を求め、\(E_\mathrm{cell}^\circ=-\Delta_\mathrm{r}G^\circ/(nF)\) を使う。

  1. \[ \boxed{(A)=\ce{Zn^{2+}},\qquad (B)=\ce{Zn(OH)2},\qquad (C)=\ce{Zn}} \]

  2. \(a_{\ce{Zn^{2+}}}=1\) なので、

    \[ \boxed{E_1=E^\circ_{\ce{Zn^{2+}/Zn}}=-0.762\ \mathrm{V\ vs\ SHE}}. \]

  3. \[ \boxed{E_2=-0.419-0.05916x\quad[\mathrm{V\ vs\ SHE}]} \]

  4. 設問の簡略化に従えば、

    \[ \begin{aligned} \text{正極:}&\quad \ce{MnO2 + 2H2O + 2e- -> Mn(OH)2 + 2OH-},\\ \text{負極:}&\quad \ce{Zn + 2OH- -> Zn(OH)2 + 2e-},\\ \text{全反応:}&\quad \ce{MnO2 + Zn + 2H2O -> Mn(OH)2 + Zn(OH)2}. \end{aligned} \]

    \[ \Delta_\mathrm{r}G^\circ =-618.58-555.07+465.14+2(237.13) =-234.25\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} \]

    より、

    \[ \boxed{ E_\mathrm{cell}^\circ =\frac{234.25\times10^3}{2F} =1.214\ \mathrm{V} }. \]

問題D5 錯形成による見かけの標準電位

酸化体 \(\ce{O}\) と還元体 \(\ce{R}\) の反応を

\[ \ce{O + ne- <=> R} \]

とし、その標準電位を \(E^\circ\) とする。配位子 \(\ce{L}\) との錯形成

\[ \ce{O + L <=> OL},\qquad \ce{R + L <=> RL} \]

の解離定数を、それぞれ

\[ K_\mathrm{O}=\frac{a_{\ce{O}}a_{\ce{L}}}{a_{\ce{OL}}}, \qquad K_\mathrm{R}=\frac{a_{\ce{R}}a_{\ce{L}}}{a_{\ce{RL}}} \]

とする。錯体間の酸化還元反応

\[ \ce{OL + ne- <=> RL} \]

の標準電位が

\[ E_\mathrm{app}^\circ =E^\circ+\frac{RT}{nF}\ln\frac{K_\mathrm{O}}{K_\mathrm{R}} \]

となることを示せ。

錯形成が酸化体側を強く安定化するか、還元体側を強く安定化するかによって、還元されやすさが変わる。解離定数と標準反応ギブズエネルギーの関係は

\[ \Delta G_\mathrm{diss}^\circ=-RT\ln K \]

である。

\(\ce{OL}\) を一度 \(\ce{O+L}\) に戻し、\(\ce{O}\)\(\ce{R}\) へ還元し、最後に \(\ce{RL}\) を作る仮想経路を考える。ヘスの法則により、この経路の標準ギブズエネルギーを足せば錯体間反応の値になる。

仮想経路

\[ \ce{OL -> O+L -> R+L -> RL} \]

について、

\[ \Delta G_\mathrm{app}^\circ =-RT\ln K_\mathrm{O} -nFE^\circ +RT\ln K_\mathrm{R}. \]

一方、

\[ \Delta G_\mathrm{app}^\circ=-nFE_\mathrm{app}^\circ \]

なので、

\[ -nFE_\mathrm{app}^\circ =-nFE^\circ-RT\ln\frac{K_\mathrm{O}}{K_\mathrm{R}}. \]

したがって、

\[ \boxed{ E_\mathrm{app}^\circ =E^\circ+\frac{RT}{nF}\ln\frac{K_\mathrm{O}}{K_\mathrm{R}} } \]

電気化学測定

問題E1 グルコースセンサと可逆系のCV

グルコースオキシダーゼと、電子メディエータであるフェリシアン化物を固定した作用電極を用いて、グルコース濃度を測定する。

  1. 固定化電極に利用できる材料を2つ挙げ、「電位窓」を用いて理由を説明せよ。
  2. 対極と参照電極を備えた三電極式セルを用いる理由を説明せよ。
  3. 代表的な参照電極を一つ挙げ、参照電極として使える理由を説明せよ。
  4. \(\ce{Fe(CN)6^{3-}/Fe(CN)6^{4-}}\) は可逆な1電子反応であり、\(E^\circ=0.356\ \mathrm{V\ vs\ SHE}\) である。サイクリックボルタンメトリーで得られる波形を描き、可逆系と判断する根拠を「電荷移動過程」または「物質移動過程」を用いて説明せよ。

電位窓は、溶媒の分解や電極自身の酸化還元など、大きな背景電流を生じずに測定できる電位範囲である。対象の酸化還元電位が電位窓内にあり、酵素やメディエータを固定できる表面化学をもつ材料を選ぶ。

三電極式では、ポテンショスタットが作用電極―参照電極間の電位を測り、作用電極―対極間に必要な電流を流す。参照電極にはほとんど電流を流さないため、参照電極の電位が分極でずれにくい。

可逆なCVでは、電極表面の電子移動が十分速く、物質移動、特に拡散が電流を支配する。\(25\ ^\circ\mathrm{C}\) の可逆1電子反応なら、理想的には

\[ \Delta E_\mathrm{p}=E_\mathrm{pa}-E_\mathrm{pc} \simeq59\ \mathrm{mV}, \qquad \abs{\frac{i_\mathrm{pa}}{i_\mathrm{pc}}}\simeq1 \]

となる。また、ピーク電流の絶対値は走査速度 \(v\) の平方根に比例する。

  1. 例としてグラッシーカーボンと金を用いられる。どちらも \(\ce{Fe(CN)6^{3-}/Fe(CN)6^{4-}}\) の反応電位を含む十分な電位窓と導電性をもち、カーボン表面の官能基化や金―チオール結合によって分子を固定しやすい。
  2. 参照電極に電流を流さず一定電位を保ち、作用電極の電位制御と、対極を通る電流の供給を分離するためである。
  3. 例として \(\ce{Ag/AgCl}\) 電極がある。一定の \(\ce{Cl-}\) 活量のもとで可逆平衡 \(\ce{AgCl+e- <=> Ag+Cl-}\) が成立し、ほぼ無電流なら再現性の高い一定電位を示す。
  4. 模範的な波形は次のようになる。
横軸電位、縦軸電流。往路に正の酸化ピーク、復路にほぼ同じ大きさの負の還元ピークがあり、ピーク電位差は約59ミリボルトと示されている。
Figure 4: 可逆1電子反応のサイクリックボルタモグラム模式図

電荷移動過程が物質移動より十分速いため、電極表面はネルンスト平衡に近く、拡散律速の一対のピークを生じる。\(\Delta E_\mathrm{p}\simeq59\ \mathrm{mV}\)\(|i_\mathrm{pa}/i_\mathrm{pc}|\simeq1\) が可逆性の根拠となる。

腐食と防食

問題F1 鉄の腐食と電気化学的防食

  1. 鉄の腐食が、アルカリ性水溶液中より酸性水溶液中で起こりやすい理由を説明せよ。
  2. 電気化学的な防食法を2つ挙げ、それぞれの原理を説明せよ。

鉄の腐食では、同じ金属表面に酸化が起こるアノード部と、還元が起こるカソード部が生じる。代表的な反応は

\[ \ce{Fe -> Fe^{2+} + 2e-} \]

と、酸性溶液での

\[ \ce{2H+ + 2e- -> H2} \]

または溶存酸素の還元である。酸性側では \(\ce{H+}\) の供給が多く、鉄酸化物・水酸化物の皮膜も溶けやすい。一方、適切なアルカリ性条件では緻密な酸化物・水酸化物の不動態皮膜が形成され、鉄の溶解速度を下げる。

カソード防食は鉄の電位を卑な方向へ動かし、鉄表面で酸化反応が進まないようにする。犠牲陽極法では鉄より卑な金属を代わりに溶かし、外部電源法では直流電源から電子を供給する。

アノード防食は、活性―不動態転移を示す金属の電位を不動態域に制御し、小さな不動態保持電流で皮膜を維持する方法である。どちらも材料と環境に適した電位範囲の管理が必要である。

  1. 酸性溶液ではカソード反応 \(\ce{2H+ + 2e- -> H2}\) が進みやすく、鉄表面の酸化物・水酸化物皮膜も溶解しやすいため、アノード反応 \(\ce{Fe -> Fe^{2+} + 2e-}\) が継続する。アルカリ性では不動態皮膜が安定化しやすく、鉄の溶解が抑えられる。
    • カソード防食:犠牲陽極または外部電源で鉄へ電子を供給し、鉄の電位を卑にして鉄の酸化を抑える。
    • アノード防食:外部電源で鉄の電位を不動態域に保ち、保護性酸化皮膜を維持して溶解電流を小さくする。

問題F2 電気化学用語の短答

次の語句を、それぞれ1〜2行で説明せよ。

  1. アノード反応
  2. コールラウシュの平方根則
  3. ルイス塩基
  4. 電気伝導度滴定
  5. 光電気化学
  6. ボルタ電位差
  7. 水素過電圧

短答では、単なる言い換えではなく「何についての概念か」「何が起こるか」「何に依存するか」のうち必要な二点を入れる。たとえばアノードは電池の正負ではなく、酸化が起こる電極として定義すれば、電池と電解槽の両方に通用する。

  1. アノード反応:電極から外部回路へ電子を放出する酸化反応。アノードが正極か負極かは、電解槽か電池かで変わる。
  2. コールラウシュの平方根則:希薄な強電解質について、モル伝導率が \(\Lambda=\Lambda^\infty-K\sqrt c\) に従って濃度の平方根とともに低下する経験則。
  3. ルイス塩基:共有結合の形成に使える電子対を供与する化学種。
  4. 電気伝導度滴定:滴定に伴う溶液の導電率変化を測り、傾きの変化や極小・交点から当量点を求める方法。
  5. 光電気化学:光吸収で生成した電子・正孔が関与する電極反応や、光と電気化学エネルギーの変換を扱う分野。
  6. ボルタ電位差:異なる二相の外部電位の差。表面双極子を含むため、単純な溶液内電位差とは区別する。
  7. 水素過電圧:水素発生を有限速度で進めるため、平衡電位から余分に必要となる電位差。電極材料、表面状態、電流密度に依存する。

まとめ

この範囲では、次の対応を押さえる。

  • 電流・時間と反応量は、電子の物質量を介してファラデーの法則で結ぶ。
  • 電子ボルト、熱エネルギー、光子エネルギーは、すべてジュールへ直せば比較できる。
  • 溶液中のイオン輸送では、水和を含む有効半径、イオン強度、活量を区別する。
  • 電解質の導電率は各イオンの寄与へ分け、弱電解質では電離度と結びつける。
  • 電位は電荷の符号を保ったまま計算する。
  • 電位―pH図の境界と電池電圧は、反応式、ギブズエネルギー、ネルンスト式から一貫して求める。
  • 三電極式とCVでは、電位制御、電荷移動、物質移動の役割を分けて考える。
  • 腐食と防食は、局部電池のどちらの半反応を促進・抑制するかで説明する。
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