\[
\require{physics}
\require{mhchem}
\require{ams}
\]
この記事では、結晶の向きから塑性変形を予測し、転位の弾性場を経て、き裂と粒界が強度を決めるところまでを問題でつなげます。
結晶方位とすべり
問題A1 Schmid則と臨界分解せん断応力
断面積 \(S\) の単結晶丸棒に引張力 \(F\) を負荷する。引張方向とすべり面法線のなす角を \(\phi\)、引張方向とすべり方向のなす角を \(\lambda\) とする。
- すべり系に作用する分解せん断応力 \(\tau\) を、\(S,F,\phi,\lambda\) の関数として導け。
- 臨界分解せん断応力とSchmid因子について述べよ。
問いの正体は、棒を引っ張る力のうち、実際に結晶面を滑らせる成分だけを二回の射影で取り出すことです。
棒の公称引張応力は
\[
\sigma=\frac{F}{S}
\]
です。引張軸に垂直な断面積 \(S\) は、すべり面の面積 \(A\) を引張軸へ投影した面積なので、
\[
S=A\cos\phi,
\qquad
A=\frac{S}{\cos\phi}
\]
となります。一方、引張力のすべり方向成分は \(F\cos\lambda\) です。したがって、すべり面上の分解せん断応力は
\[
\tau
=\frac{F\cos\lambda}{A}
=\frac{F}{S}\cos\phi\cos\lambda
\]
となります。
\[
m=\cos\phi\cos\lambda
\]
をSchmid因子と呼びます。\(m\) は材料定数ではなく、引張軸とすべり系の相対方位だけで決まる幾何学量です。一方、すべりが始まるために必要な分解せん断応力 \(\tau_{\mathrm{CRSS}}\) は、材料、温度、組織、ひずみ速度などで決まります。
複数のすべり系があるときは、一般に \(\abs{m}\) が大きく、かつ \(\tau_{\mathrm{CRSS}}\) が小さい系から活動します。\(m\) の符号はせん断方向を表すので、活動しやすさの比較には絶対値を使います。
Schmid因子の結晶指数による計算法と符号の扱いは、材料力学IIの問題D1で詳しく扱っています。
すべり面の面積を \(A\) とすると、その引張軸への投影が \(S\) なので
\[
A=\frac{S}{\cos\phi}.
\]
引張力のすべり方向成分は \(F\cos\lambda\) である。よって、
\[
\boxed{
\tau
=\frac{F\cos\lambda}{A}
=\frac{F}{S}\cos\phi\cos\lambda
}
\]
となる。Schmid因子は
\[
\boxed{m=\cos\phi\cos\lambda}
\]
であり、単軸応力のうち指定したすべり系をせん断する割合を表す方位因子である。すべりは
\[
\boxed{\abs{m\sigma}=\tau_{\mathrm{CRSS}}}
\]
を満たしたときに始まる。
転位の弾性場
問題B1 刃状転位まわりの引張・圧縮応力
転位線が \(z\) 軸、Burgers vectorが \(+x\) 方向の刃状転位を考える。等方弾性体中の応力場が
\[
\sigma_{xx}
=-\frac{Gb}{2\pi(1-\nu)}
\frac{y(3x^2+y^2)}{(x^2+y^2)^2},
\]
\[
\sigma_{yy}
=\frac{Gb}{2\pi(1-\nu)}
\frac{y(x^2-y^2)}{(x^2+y^2)^2}
\]
で与えられる。ここで \(G\) は剛性率、\(b\) はBurgers vectorの大きさ、\(\nu\) はPoisson比である。刃状転位周囲の引張・圧縮応力分布を図示せよ。
問いの正体は、式の符号が空間のどこで変わるかを読み、転位芯の上側と下側で圧縮・引張が反転することを図にする問題です。
刃状転位は、結晶の途中で終端する余分な半原子面の縁に相当します。余分な半原子面がある側では原子間隔が押し縮められ、その反対側では引き伸ばされます。この上下非対称性が、両式の分子にある \(y\) に現れています。
\(b>0\) とすれば、\(\sigma_{xx}\) は \(y>0\) で常に負、\(y<0\) で常に正です。引張応力を正、圧縮応力を負と取ると、転位芯の上側は \(x\) 方向の圧縮、下側は引張になります。
\(\sigma_{yy}\) は \(y=0\) に加え、\(x=\pm y\) でも符号が変わります。そのため、\(\sigma_{xx}\) より細かい扇形の引張・圧縮領域ができます。
どちらも遠方では概ね \(Gb/r\) に比例して減衰します。一方、\(r=\sqrt{x^2+y^2}=0\) では連続体弾性論の式が発散します。実際の転位芯では原子配列が大きく乱れるため、芯半径より内側へこの式を適用してはいけません。
\(Gb/[2\pi(1-\nu)]\) で規格化した応力分布を描くと、次のようになる。白い円内は転位芯として連続体式を適用しない領域である。
作図コード
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
from matplotlib.colors import TwoSlopeNorm
axis = np.linspace(-2.0, 2.0, 501)
X, Y = np.meshgrid(axis, axis)
R2 = X**2 + Y**2
core = R2 < 0.10**2
with np.errstate(divide="ignore", invalid="ignore"):
sigma_xx = -Y * (3 * X**2 + Y**2) / R2**2
sigma_yy = Y * (X**2 - Y**2) / R2**2
sigma_xx[core] = np.nan
sigma_yy[core] = np.nan
limit = 2.5
levels = np.linspace(-limit, limit, 41)
norm = TwoSlopeNorm(vmin=-limit, vcenter=0, vmax=limit)
fig, axes = plt.subplots(1, 2, figsize=(9.2, 4.0), sharex=True, sharey=True)
for ax, field, title in zip(
axes,
(sigma_xx, sigma_yy),
(r"$\sigma_{xx}$", r"$\sigma_{yy}$"),
):
contour = ax.contourf(
X,
Y,
np.clip(field, -limit, limit),
levels=levels,
cmap="RdBu_r",
norm=norm,
extend="both",
)
ax.add_patch(plt.Circle((0, 0), 0.10, color="white", ec="black", lw=0.9))
ax.axhline(0, color="0.35", lw=0.7)
ax.axvline(0, color="0.35", lw=0.7)
ax.set(xlabel=r"$x$", ylabel=r"$y$", title=title, aspect="equal")
fig.colorbar(contour, ax=axes, shrink=0.88, label="normalized stress")
plt.show()
\(b>0\) のとき、\(\sigma_{xx}\) は \(y>0\) で圧縮、\(y<0\) で引張となる。\(\sigma_{yy}\) は \(y=0\) と \(x=\pm y\) を境に符号が変わる。
問題B2 らせん転位のひずみエネルギー
\(G\) を剛性率、\(b\) をBurgers vectorの大きさ、\(\rho\) を転位線からの距離、\(r_0\) を転位芯半径とする。長さ1の円柱の中心にらせん転位があると考え、半径 \(r_0\) から外半径 \(r\) までに蓄えられる弾性ひずみエネルギーが
\[
E=\frac{Gb^2}{4\pi}\ln\left(\frac{r}{r_0}\right)
\]
となることを示せ。
問いの正体は、転位から遠ざかるほど弱くなるせん断変形を、同心円状の薄い殻ごとに積分することです。
らせん転位のまわりでは、半径 \(\rho\) の円を一周すると軸方向変位が \(b\) だけずれます。したがって、せん断ひずみとせん断応力は
\[
\gamma(\rho)=\frac{b}{2\pi\rho},
\qquad
\tau(\rho)=G\gamma(\rho)
\]
です。線形弾性体のひずみエネルギー密度は
\[
w(\rho)
=\int_0^\gamma \tau\dd\gamma
=\frac12G\gamma^2
\]
となります。
半径 \(\rho\)、厚さ \(\dd\rho\)、長さ1の円筒殻の体積は \(2\pi\rho\dd\rho\) です。したがって、単位長さ当たりのエネルギーは \(w(\rho)\) にこの体積を掛け、\(r_0\) から \(r\) まで積分して求めます。
内側の切断半径 \(r_0\) は、連続体弾性論を適用できない転位芯を除くために必要です。外側にも結晶粒径や転位間隔などの切断長さが必要で、転位のエネルギーは周囲の組織寸法にも依存します。
半径 \(\rho\) におけるせん断ひずみ、応力、エネルギー密度は
\[
\gamma=\frac{b}{2\pi\rho},
\qquad
\tau=G\gamma,
\qquad
w=\frac12G\gamma^2
=\frac{Gb^2}{8\pi^2\rho^2}
\]
である。長さ1、厚さ \(\dd\rho\) の円筒殻の体積は \(2\pi\rho\dd\rho\) なので、
\[
\begin{aligned}
E
&=\int_{r_0}^{r}w(\rho)2\pi\rho\dd\rho\\
&=\int_{r_0}^{r}
\frac{Gb^2}{4\pi}\frac{\dd\rho}{\rho}\\
&=\boxed{
\frac{Gb^2}{4\pi}
\ln\left(\frac{r}{r_0}\right)
}.
\end{aligned}
\]
これは転位の単位長さ当たりの弾性ひずみエネルギーであり、単位は \(\mathrm{J\,m^{-1}}\) である。
き裂と破壊
問題C1 Griffithのき裂進展条件
無限板へ引張応力 \(\sigma\) を印加したところ、応力軸と垂直な長軸をもつ、長さ \(2c\) の楕円状き裂が生じた。き裂によって解放される弾性エネルギーと、新しい表面を作るために必要な表面エネルギーが、単位板厚当たり
\[
W_{\mathrm{el}}=\frac{\pi\sigma^2c^2}{E},
\qquad
W_{\mathrm{s}}=4c\gamma_{mathrm{s}}
\]
で表されるとする。ここで、\(E\) はYoung率、\(\gamma_{\mathrm{s}}\) は単位面積当たりの表面エネルギーである。Griffithのき裂進展条件を導け。
問いの正体は、き裂が伸びることで得られる弾性エネルギーの減少が、新しい破面を作る費用を上回るかを判定することです。
き裂が長くなると、き裂周囲の応力が緩和され、材料中に蓄えられていた弾性エネルギーが解放されます。これは全エネルギーを下げる効果なので \(-W_{\mathrm{el}}\) と数えます。一方、き裂の上下に新しい二面を作るには表面エネルギー \(W_{\mathrm{s}}\) が必要です。
したがって、き裂導入による全エネルギー変化は
\[
\Delta W(c)
=-\frac{\pi\sigma^2c^2}{E}
+4c\gamma_{\mathrm{s}}
\]
です。小さいき裂では表面形成の費用が支配的ですが、弾性エネルギーの解放は \(c^2\) に比例するため、十分長いき裂では伸びる方がエネルギー的に有利になります。
臨界点は \(\dv*{\Delta W}{c}=0\) で求めます。この点を超えると \(\dv*{\Delta W}{c}<0\) となり、き裂が伸びるほど全エネルギーが下がるため不安定進展します。
ここでは問題で与えられた \(E\) を使います。平面ひずみ条件では、より一般に \(E\) を \(E/(1-\nu^2)\) に置き換えた有効弾性率を用います。
き裂導入による単位板厚当たりの全エネルギー変化は
\[
\Delta W
=-W_{\mathrm{el}}+W_{\mathrm{s}}
=-\frac{\pi\sigma^2c^2}{E}+4c\gamma_{\mathrm{s}}
\]
である。臨界条件は
\[
\dv{\Delta W}{c}
=-\frac{2\pi\sigma^2c}{E}+4\gamma_{\mathrm{s}}=0
\]
なので、
\[
\boxed{
\sigma_{\mathrm{c}}
=\sqrt{\frac{2E\gamma_{\mathrm{s}}}{\pi c}}
}
\]
を得る。\(\sigma>\sigma_{\mathrm{c}}\)、または同じ応力で \(c\) が臨界長さを超えると、き裂は不安定に進展する。
問題C2 結晶の理論せん断強度
金属結晶のすべり面間隔を \(a\)、すべり方向の原子間隔を \(b\) とする。原子面を相対変位 \(x\) だけずらしたときのせん断応力が、周期 \(b\) の正弦関数で近似できるものとする。剛性率を \(G\) として、結晶の理論せん断強度を導け。また、得られた理論値が実験値よりはるかに大きい理由を説明せよ。
問いの正体は、原子配列の周期性と小ひずみのHooke則を、変位 \(x=0\) での傾きが一致するようにつなぐことです。
原子面を格子間隔 \(b\) だけずらすと、元と等価な配置へ戻ります。そのため、せん断応力を
\[
\tau(x)=\tau_{\mathrm{th}}\sin\left(\frac{2\pi x}{b}\right)
\]
と近似できます。小さな \(x\) では \(\sin u\simeq u\) なので、
\[
\tau(x)\simeq
\tau_{\mathrm{th}}\frac{2\pi x}{b}.
\]
一方、せん断ひずみは \(\gamma=x/a\) であり、Hooke則から
\[
\tau=G\gamma=G\frac{x}{a}
\]
です。二式の \(x=0\) 近傍の傾きを合わせると、正弦波の最大値 \(\tau_{\mathrm{th}}\) が求まります。
このモデルは、すべり面上のすべての原子結合を同時に組み替える完全結晶を仮定しています。実結晶では転位が局所的に移動し、少数の結合を順番に組み替えるため、はるかに小さい応力ですべりが進みます。
せん断応力を
\[
\tau(x)=\tau_{\mathrm{th}}
\sin\left(\frac{2\pi x}{b}\right)
\]
と置く。\(x\ll b\) では
\[
\tau(x)\simeq
\tau_{\mathrm{th}}\frac{2\pi x}{b}.
\]
Hooke則 \(\tau=Gx/a\) と傾きを比較すると、
\[
\boxed{
\tau_{\mathrm{th}}=\frac{Gb}{2\pi a}
}
\]
を得る。\(a\simeq b\) なら \(\tau_{\mathrm{th}}\simeq G/(2\pi)\) である。
実結晶では転位の移動により、すべり面全体ではなく転位芯近傍の結合だけが順次組み替わる。このため、実測降伏せん断応力は完全結晶を仮定した理論値よりはるかに小さい。
粒界
問題D1 粒界の種類と構造
粒界の種類と、その原子構造について記せ。
問いの正体は、二つの結晶粒の相対方位差が小さいときは粒界を転位列として説明でき、大きくなるとその描像が使えなくなることです。
粒界は、結晶方位の異なる二つの結晶粒の境界です。代表的には、回転軸と粒界面の関係から傾角粒界とねじれ粒界に分類できます。
- 傾角粒界:二つの結晶が、粒界面内の軸のまわりに相対回転した境界
- ねじれ粒界:二つの結晶が、粒界面法線のまわりに相対回転した境界
方位差 \(\theta\) が小さい低角粒界は、規則的に並んだ転位列として表せます。単純な小角傾角粒界では、転位間隔を \(D\) とすると
\[
D\simeq\frac{b}{\theta}
\]
です。方位差が大きくなるほど転位間隔は狭くなり、転位芯同士が重なるようになるため、独立な転位列としての記述はできなくなります。この領域を高角粒界と呼びます。低角・高角の境は材料や目的によりますが、約 \(15^\circ\) がよく使われる目安です。
高角粒界は完全な非晶質層ではありません。対応粒界など、比較的規則的で低エネルギーな原子配列をもつ特殊粒界もあります。粒界構造は方位差だけでなく、回転軸、粒界面、偏析元素にも依存します。
粒界が転位運動と降伏応力へ及ぼす影響は、金属材料学の問題A3で扱っています。
粒界は、隣接する結晶粒の相対方位と粒界面によって分類される。代表例は、粒界面内の軸まわりの回転でできる傾角粒界と、粒界面法線まわりの回転でできるねじれ粒界である。
方位差が小さい低角粒界は、刃状転位またはらせん転位が周期的に並んだ転位列として記述できる。小角傾角粒界では
\[
D\simeq\frac{b}{\theta}
\]
となる。方位差が増すと転位間隔が狭くなり、転位芯が重なるため、独立転位の列として記述できない高角粒界になる。低角・高角の境界には約 \(15^\circ\) が目安として用いられる。
高角粒界は結晶内部より乱れた構造をもつが、単なる非晶質層ではなく、方位関係と粒界面に応じた原子配列をもつ。
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