信頼性学
\[ \require{physics} \]
この記事では、欠陥を含む材料の破壊、疲労、腐食、AE位置標定を、寿命や限界値を計算する問題としてつなげる。各節は問題、理論、解答の順で構成する。
静的破壊
問題1 応力拡大係数と破壊靱性
引張強さが \(800\ \mathrm{MPa}\)、破壊靱性が \(K_{\mathrm{IC}}=50\ \mathrm{MPa\sqrt{m}}\) の材料に、全長 \(2a=10\ \mathrm{mm}\) の中央き裂がある。遠方引張応力 \(\sigma=400\ \mathrm{MPa}\) を加えたとき、き裂は進展するか。形状係数を \(Y=1\) とする。
同じ公称応力でも、き裂が長いほど先端の応力場は強くなる。線形弾性破壊力学では、その強さを
\[ K_{\mathrm{I}}=Y\sigma\sqrt{\pi a} \]
で表す。平面ひずみ破壊靱性 \(K_{\mathrm{IC}}\) は材料が抵抗できる限界であり、
\[ K_{\mathrm{I}}\ge K_{\mathrm{IC}} \]
なら不安定破壊の条件を満たす。引張強さと直接比較するのではなく、まず \(K\) を比較する。
半き裂長さは \(a=5.0\times10^{-3}\ \mathrm{m}\) なので、
\[ K_{\mathrm{I}} =(1)(400)\sqrt{\pi(5.0\times10^{-3})} =50.13\ \mathrm{MPa\sqrt{m}}. \]
これは \(K_{\mathrm{IC}}=50\ \mathrm{MPa\sqrt{m}}\) をわずかに上回る。したがって、与条件ではき裂は進展する。
同じことを限界応力で表すと
\[ \sigma_c=\frac{K_{\mathrm{IC}}}{Y\sqrt{\pi a}} =398.9\ \mathrm{MPa}<400\ \mathrm{MPa} \]
である。
問題2 Griffithのエネルギー条件
脆性材料の表面エネルギーを \(\gamma=1.0\ \mathrm{J\,m^{-2}}\)、Young率を \(E=70\ \mathrm{GPa}\) とする。全長 \(2a=2.0\ \mathrm{\mu m}\) の中央き裂が進展するために必要な最小引張応力を、Griffithのエネルギー論から求めよ。平面応力状態とする。
き裂が伸びると、周囲に蓄えられていた弾性エネルギーが解放される一方、新しい二つの破面を作るため表面エネルギーが必要になる。単位き裂進展面積当たりのエネルギー解放率を \(G\) とすると、
\[ G\ge G_c=2\gamma \]
が進展条件である。無限板中の中央き裂について平面応力なら
\[ G=\frac{\pi a\sigma^2}{E} \]
である。したがって \(\sigma_c=\sqrt{2E\gamma/(\pi a)}\) となる。
\(a=1.0\times10^{-6}\ \mathrm{m}\) より、
\[ \sigma_c =\sqrt{\frac{2E\gamma}{\pi a}} =\sqrt{\frac{2(70\times10^9)(1.0)} {\pi(1.0\times10^{-6})}} =2.11\times10^8\ \mathrm{Pa}. \]
したがって、最小引張応力は
\[ \boxed{\sigma_c\simeq211\ \mathrm{MPa}} \]
である。
疲労き裂と累積損傷
問題3 Paris則による疲労寿命
断面積 \(A=500\ \mathrm{mm^2}\) の平板へ、\(P_{\max}=50\ \mathrm{kN}\)、\(P_{\min}=0\) の繰返し荷重を加える。初期半き裂長さを \(a_0=1.0\ \mathrm{mm}\)、限界半き裂長さを \(a_f=20\ \mathrm{mm}\) とする。
Paris則
\[ \dv{a}{N}=C(\Delta K)^m \]
で \(C=1.0\times10^{-11}\ \mathrm{m\,cycle^{-1}(MPa\sqrt{m})^{-4}}\)、\(m=4\)、\(\Delta K=\Delta\sigma\sqrt{\pi a}\)、形状係数 \(Y=1\) として、破断までの繰返し数 \(N_f\) を求めよ。
Paris則は一周期ごとのき裂進展量を表す。\(\Delta K\propto\sqrt a\) なので、き裂が長くなるほど進展速度も増す。一定速度として「長さ÷速度」を計算せず、
\[ N_f=\int_{a_0}^{a_f}\frac{\dd a}{C(\Delta\sigma\sqrt{\pi a})^m} \]
と積分する。\(C\) の単位に合わせ、\(\Delta\sigma\) はMPa、\(a\) はmで代入する。
応力範囲は
\[ \Delta\sigma=\frac{P_{\max}-P_{\min}}{A} =\frac{50\times10^3}{500\times10^{-6}} =100\ \mathrm{MPa}. \]
\(m=4\) なので、
\[ \begin{aligned} N_f &=\frac{1}{C(\Delta\sigma\sqrt\pi)^4} \int_{a_0}^{a_f}a^{-2}\dd a\\ &=\frac{1}{C(\Delta\sigma\sqrt\pi)^4} \left(\frac1{a_0}-\frac1{a_f}\right)\\ &=\frac{1000-50} {(1.0\times10^{-11})(100\sqrt\pi)^4}\\ &=9.63\times10^4\ \mathrm{cycles}. \end{aligned} \]
問題4 Basquin則とMiner則
ある合金について、応力振幅 \(\sigma_a\) と破断寿命 \(N_f\) の組が
| \(\sigma_a\ (\mathrm{MPa})\) | \(N_f\) |
|---|---|
| 400 | \(10^5\) |
| 300 | \(10^6\) |
であった。
- Basquin則 \(\sigma_a^bN_f=C\) を仮定し、\(\sigma_a=250\ \mathrm{MPa}\) における寿命を求めよ。
- \(\sigma_a=400\ \mathrm{MPa}\) を \(5.0\times10^4\) 回与えた後、\(\sigma_a=300\ \mathrm{MPa}\) を加える。Miner則に基づき、後段で破断するまでの繰返し数を求めよ。
Basquin則は両対数上で直線となるため、二点から指数 \(b\) を決められる。Miner則は各荷重段階で消費した寿命比
\[ D=\sum_i\frac{n_i}{N_{f,i}} \]
を加算し、\(D=1\) で破断すると近似する。荷重順序の効果は表せないことが適用限界である。
二点の比から
\[ \left(\frac{400}{300}\right)^b =\frac{10^6}{10^5}=10, \qquad b=\frac{\ln10}{\ln(4/3)}=8.00. \]
したがって
\[ N_f(250) =10^6\left(\frac{300}{250}\right)^b =4.31\times10^6\ \mathrm{cycles}. \]
\[ \frac{5.0\times10^4}{10^5} +\frac{n_2}{10^6}=1 \]
より、
\[ \boxed{n_2=5.0\times10^5\ \mathrm{cycles}}. \]
腐食による減肉
問題5 Nernst式、Tafel式、腐食速度
\(\mathrm{pH}=0\)、\(T=298\ \mathrm{K}\) の水溶液中に鉄があり、\(a_{\ce{Fe^{2+}}}=10^{-6}\)、\(p_{\ce{H2}}=1\ \mathrm{atm}\) とする。
\(\ce{Fe^{2+}/Fe}\) と \(\ce{H+/H2}\) の平衡電位を求めよ。\(E^\circ_{\ce{Fe^{2+}/Fe}}=-0.44\ \mathrm{V}\) とする。
分極曲線が
\[ E_a=-0.62+0.06\log_{10}i,\qquad E_c=-0.30-0.10\log_{10}i \]
で表されるとき、腐食電位と腐食電流密度を求めよ。\(i\) の単位は \(\mathrm{\mu A\,cm^{-2}}\) とする。
鉄が \(\ce{Fe -> Fe^{2+} + 2e^-}\) で一様溶解するとして、一年当たりの減肉深さを求めよ。\(M_{\ce{Fe}}=55.85\ \mathrm{g\,mol^{-1}}\)、\(\rho_{\ce{Fe}}=7.87\ \mathrm{g\,cm^{-3}}\)、\(F=96485\ \mathrm{C\,mol^{-1}}\) とする。
Nernst式は反応が平衡になる電位を与える。
\[ E=E^\circ-\frac{RT}{nF}\ln Q. \]
実際の腐食では、アノードの鉄溶解速度とカソードの水素発生速度が等しくなる混成電位で作動する。二本のTafel直線の交点が腐食電位 \(E_{\mathrm{corr}}\) と腐食電流密度 \(i_{\mathrm{corr}}\) である。減肉量はFaraday則で電気量を物質量へ変換して求める。
詳しい電極電位・活量・腐食の基礎は材料電気化学の対応問題を参照。
還元反応 \(\ce{Fe^{2+}+2e^- -> Fe}\) について
\[ E_{\ce{Fe^{2+}/Fe}} =-0.44+\frac{0.05916}{2}\log_{10}(10^{-6}) =-0.617\ \mathrm{V}. \]
\(\mathrm{pH}=0\)、\(p_{\ce{H2}}=1\ \mathrm{atm}\) では
\[ E_{\ce{H+/H2}}=0\ \mathrm{V}. \]
交点条件 \(E_a=E_c\) より
\[ 0.16\log_{10}i=0.32, \qquad i_{\mathrm{corr}}=100\ \mathrm{\mu A\,cm^{-2}}. \]
このとき
\[ E_{\mathrm{corr}}=-0.62+0.06(2)=-0.50\ \mathrm{V}. \]
\(i_{\mathrm{corr}}=1.0\times10^{-4}\ \mathrm{A\,cm^{-2}}\) なので、時間 \(t\) における厚さ減少は
\[ d=\frac{i_{\mathrm{corr}}M_{\ce{Fe}}t}{2F\rho_{\ce{Fe}}}. \]
\(t=365\times24\times3600\ \mathrm{s}\) を代入して
\[ d=0.116\ \mathrm{cm\,year^{-1}} =1.16\ \mathrm{mm\,year^{-1}}. \]
AEによる破壊位置の標定
問題6 弾性波速度と到達時間差
一次元弾性棒の運動方程式
\[ \pdv[2]{u}{t}=c^2\pdv[2]{u}{x} \]
を導き、\(E=206\ \mathrm{GPa}\)、\(\rho=7.85\times10^3\ \mathrm{kg\,m^{-3}}\) の棒の縦波速度を求めよ。
また、長さ \(L=2.0\ \mathrm{m}\) の棒の両端にAEセンサーを置く。位置 \(x\) で生じた信号の到達時間差の絶対値が \(\abs{\Delta t}=0.20\ \mathrm{ms}\) であった。発生位置を求めよ。
断面積 \(A\)、長さ \(\dd x\) の微小要素について、左右面の軸力差は
\[ A\left[\sigma(x+\dd x)-\sigma(x)\right] \simeq A\pdv{\sigma}{x}\dd x. \]
これを質量 \(\rho A\dd x\) と加速度の積へ等置し、Hooke則 \(\sigma=E\pdv{u}{x}\) を使う。位置標定では、左端までの距離 \(x\) と右端までの距離 \(L-x\) の差を、速度で割ったものが到達時間差となる。どちらのセンサーが先に検出したか不明なら、左右対称な二解が残る。
微小要素の運動方程式は
\[ \rho A\dd x\pdv[2]{u}{t} =A\pdv{\sigma}{x}\dd x. \]
\(\sigma=E\pdv{u}{x}\) を代入すると
\[ \pdv[2]{u}{t} =\frac{E}{\rho}\pdv[2]{u}{x}, \qquad c=\sqrt{\frac{E}{\rho}} =5.12\times10^3\ \mathrm{m\,s^{-1}}. \]
到達時間差は
\[ \abs{\Delta t} =\frac{\abs{x-(L-x)}}{c} =\frac{\abs{2x-L}}{c}. \]
したがって
\[ x=\frac{L\pm c\abs{\Delta t}}{2} =\frac{2.0\pm(5.12\times10^3)(2.0\times10^{-4})}{2}, \]
すなわち
\[ \boxed{x=0.488\ \mathrm{m}\quad\text{または}\quad1.512\ \mathrm{m}}. \]
先に検出した端が分かれば一方へ決まる。左端センサーが先なら \(x=0.488\ \mathrm{m}\) である。